四病院団体協議会の2024年度病院経営定期調査(最終報告)によると、病院の医業赤字率は74.6%、経常赤字は**65.6%に達しています。帝国データバンクの2024年度調査でも、民間病院約900法人の営業赤字は61.0%**と前年(54.8%)から悪化が続いています。令和8年度診療報酬改定では本体プラス3.09%という約30年ぶりの大幅増収が実現しましたが、コスト構造を見直さなければ増収の恩恵は手元に残りません。
人件費が医業費用の5〜6割を占めることはよく知られていますが、その次に大きな費用項目のひとつが診療材料費です。薬剤費と並ぶ「もうひとつのコスト」として注目されながら、医薬品ほど管理の体系化が進んでいない施設が少なくありません。本記事では、診療材料費の構造を正確に把握し、品目標準化・共同購買・月次モニタリングの3本柱で継続的に削減する実務を解説します。
1. 診療材料費とは何か — 対象品目と費用構造
診療材料費とは、患者の診断・治療・処置・手術に直接使用される消耗品・器材の費用です。一般に「診療材料費」または「医療消耗品費」として計上されます。代表的な品目は以下のとおりです。
- 手術・処置材料: 縫合糸・ガーゼ・ドレーン・カテーテル類・ステープラー
- 注射・点滴関連: 注射針・シリンジ・輸液ライン・留置針
- 消毒・感染対策用品: 手指消毒剤・手袋・マスク・ガウン類
- 検査材料: 採血管・スワブ・検体容器・試薬(外注以外の院内分)
- リハビリ・病棟用品: 歩行補助具・体位保持クッション・褥瘡予防資材
これらの品目は使い捨てが基本であり、患者数・手術件数・入院日数の増減に連動して変化する変動費的な性格を持ちます。病床利用率が上昇すれば診療材料費は増加しますが、利用率が低下しても一定量は消費されるため、完全な変動費とは言えません。手術室・ICU・血管撮影室など処置密度の高い部門に費用が集中する傾向があります。
診療材料費は、薬剤費と合算して「診療材料費・薬剤費」として報告されることもありますが、管理においては別々の体制を持つことが望ましいです。薬剤は薬剤部門が統括的に管理できる一方、診療材料は診療科ごとに独立して採用・使用しているケースが多く、費用の「見える化」が難しい傾向があります。

2. 診療材料費率を正確に把握する — 分析の起点
コスト適正化の出発点は、自院の診療材料費率(対医業収益比)を正確に把握し、他施設と比較することです。自院単独の数字を眺めているだけでは改善の余地がどこにあるか見えません。
比較に使える指標・データ
| 指標 |
内容 |
| 診療材料費率(対医業収益) |
医業収益に対する診療材料費の割合。規模・機能・診療科構成によって異なる |
| 1入院患者あたり診療材料費 |
疾患ミックスの影響を受けるが、経年変化の追跡に有効 |
| 手術件数あたり材料費 |
手術部門の効率性を測る指標。術式の材料コストを標準化する際の基準になる |
| 診療科別材料費 |
消化器外科・循環器内科・泌尿器科など、手技量が多い科への集中度を把握 |
福祉医療機構(WAM)が実施する病院経営動向調査(WAM短観)や同機構の病院経営状況リサーチレポートには、規模・機能別の費用構成データが含まれています。同一機能・同規模の病院の平均と比較することで、自院の診療材料費率が「高め」「低め」のどちらに位置するかを確認できます。四病院団体協議会の病院経営定期調査も参考になります。
費用の集中度分析(ABC分析)
薬剤費と同様に、診療材料費もABC分析が有効です。品目数は多くても、費用の上位2〜3割の品目が総費用の6〜7割程度を占めるパレートの法則が働くことが一般的とされます(施設により異なります)。Aランク品目(費用上位品目)に管理リソースを集中させることで、限られた人員でも効果的なコスト管理ができます。
まずは医事・経営管理部門が品目別・診療科別の費用集計を行い、コストを「見える化」することが第一歩です。現場の感覚ではなく、数字に基づいた議論ができる基盤を整えましょう。

3. 診療材料費が膨らむ3つの主要因
診療材料費が同規模・同機能の施設と比べて高い場合、その原因は大きく3つに分類されます。原因を特定してから施策を打つことが重要です。
原因① 品目の乱立・標準化の遅れ
同一用途の品目について、診療科・担当医師ごとに異なるメーカー・ブランドが採用されているケースです。たとえば「縫合糸」ひとつをとっても、素材・太さ・メーカーが異なる多数の品目が院内に混在していると、仕入れ量が分散して価格交渉力が低下し、在庫管理も複雑化します。
一般に、品目数が多いほど1品目あたりの発注量は少なくなり、単価は高止まりします。品目の統合・標準化は診療材料費適正化において最も効果が大きく、かつ持続的な施策とされています。
原因② 仕入れ価格が適正水準を超えている
品目が標準化されていても、仕入れ価格が適正かどうかは別の問題です。価格交渉が属人的・不定期になっている施設では、相場よりも割高な価格で継続購入が続いていることがあります。また、単独施設の交渉力には限界があります。
原因③ 使用量・廃棄ロスの管理が不十分
開封しても使い切れなかった材料、期限切れによる廃棄、使用量の過剰な処置・手術など、「使い方」に起因するコストも無視できません。術式ごとの標準材料セット(オペパック)が設定されていない施設では、必要以上の材料が手術室に持ち込まれ、未使用のまま廃棄されることがあります。

4. 品目の標準化で「乱立」を整理する
診療材料費適正化の第一の柱が品目標準化です。標準化とは、同一用途の品目を原則として1〜2銘柄に絞り込み、院内採用品目数を最適化することです。
標準化の進め方
ステップ1: 現状棚卸し
現在採用しているすべての診療材料品目をリスト化します。品目コード・製品名・メーカー・単価・年間使用量・使用診療科を整理します。この段階で「同一用途なのに複数ブランドが採用されている品目」が浮かび上がります。
ステップ2: 統合候補の選定
同一用途の品目群について、品質・使い勝手・コストのバランスで統合候補を絞り込みます。統合の可否判断には、臨床現場(担当医師・看護師)の意見が不可欠です。特に医師が使い慣れた品目に対するこだわりは強く、一方的な変更は現場の混乱やミスのリスクにつながります。
ステップ3: 採用審査委員会での審議
薬剤の薬事委員会に相当する「材料採用委員会」(または診療材料委員会)を設置・活用し、変更案を正式に審議・承認します。委員会が存在しない施設は、既存の薬事委員会や診療改善委員会の枠組みを活用する方法もあります。
ステップ4: 移行と教育
承認後は切替のタイムラインを設定し、新規採用品の使用方法について現場に周知・教育を行います。
ステップ5: 定期レビュー
採用品目の見直しは1〜2年に1回程度定期的に行います。新製品の登場や診療内容の変化により、最適な品目構成は変わっていきます。
品目標準化によって得られる効果は、単価の低減だけではありません。在庫管理の簡素化・期限切れ廃棄の削減・病棟や手術室での「探す時間」の削減など、業務効率面での副次効果も期待できます。

5. 共同購買・SPDの活用で購買コストを圧縮する
品目が標準化できたら、次の柱は購買力の強化です。単独施設では交渉力に限界がありますが、複数施設が連携することで価格低減の余地が生まれます。
共同購買(グループ購買)の活用
複数の病院・医療法人が共同で購買交渉・入札を行う仕組みが**共同購買(コンソーシアム)**です。国内には医療機関の共同購買組合・協議会が複数存在しており、参加施設は共同交渉価格でメーカー・卸業者から調達できます。単独施設では年間数十万円の購入量しかない品目でも、グループ全体では数億円規模になることがあり、価格交渉力が大きく高まります。
ただし共同購買のメリットを享受するには、採用品目を共同購買組合の指定品目に合わせる必要があることが多く、品目標準化と一体で進めることが重要です。また、共同購買価格が市場の最安値とは限らないため、定期的に市場価格と比較することも必要です。
医薬品・診療材料の共同購買については、既存の記事「医薬品・診療材料の共同購買でコストを下げる」も参照ください。
SPD(Supply Processing and Distribution)の導入
SPDとは、医療材料の物流・在庫管理を専門業者に委託する仕組みです。院内の材料庫管理・発注・在庫追跡を業者が担うことで、在庫の過剰保有・期限切れ廃棄・欠品リスクを同時に削減できます。業者が医療機関に常駐して管理する形態(院内SPD)と、院外の物流センターから供給する形態があります。
SPD導入の効果として一般に挙げられるのは、在庫削減・廃棄ロス削減・発注業務の効率化です。ただし導入コストと管理委託費がかかるため、費用対効果をシミュレーションしてから判断することが必要です。
卸業者との年間契約と価格見直し
個々の品目について卸業者と年間単価契約を結び、定期的(通常は年1回)に価格を見直すことも有効です。競合見積もりを取ることで「価格の相場感」を把握し、価格改定交渉の根拠を持つことができます。

6. 月次モニタリングと管理体制の整備
品目の標準化と購買改革で診療材料費を削減しても、継続的なモニタリング体制を持たなければ費用はじわじわと増加していきます。診療材料費の管理には月次PDCAサイクルを組み込むことが不可欠です。
月次でモニタリングすべきKPI
| KPI |
管理頻度 |
留意点 |
| 診療材料費率(対医業収益) |
月次 |
患者数・入院日数の増減を考慮して解釈する |
| 1入院患者あたり材料費 |
月次 |
疾患ミックスの変化に注意 |
| 手術件数あたり材料費 |
月次 |
術式の変化・新術式導入時は別管理 |
| 診療科別材料費 |
月次 |
上位科(外科・循環器等)の動向を重点チェック |
| 在庫回転日数(廃棄ロス率) |
月次〜四半期 |
SPD導入施設は業者レポートを活用 |
| 品目別発注単価の前期比 |
四半期 |
価格改定・代替品切替の漏れを検出 |
福祉医療機構(WAM)の病院経営動向調査(WAM短観)では四半期ごとの経営指標が公表されており、自院の実績と業界トレンドを比較する参照データとして活用できます。
報告ラインと責任体制の明確化
診療材料費の管理は、事務部門(経営管理・医事)と診療部門(外科・手術室・各病棟)が協働で取り組む体制が求められます。月次報告会(または経営会議)では、診療材料費の状況をデータで共有し、コスト増加の原因と対策を議論する機会を設けることが重要です。
「コスト管理は経営の仕事」と現場が捉えていると、実効性が生まれません。診療材料費の目標値を診療科・部門ごとに設定し、達成状況を透明化することで、現場スタッフのコスト意識も高まります。事務長・経営企画担当者が「橋渡し役」となって、データを分かりやすく現場に届けることがポイントです。
病院の中長期経営計画の中でも、診療材料費の削減目標を明確に位置づけることが、取り組みを継続させる上で効果的です。「病院の事業計画書の書き方 — 金融機関と行政に通る構成」も参照ください。
令和8年度改定との関連
令和8年度診療報酬改定では物価対応料が新設され(急性期一般入院料1で58点/日など)、物価高騰への対応が評価されています。この加算を「入ってくる収益」として認識するとともに、診療材料費・薬剤費などの「出ていくコスト」の管理精度を高めることで、改定の恩恵を最大化できます。入院ベースアップ評価料の拡充(最大250点)も考慮すると、改定後の費用構造全体を再設計する好機です。

まとめ
診療材料費は、人件費・薬剤費と並ぶ病院の主要コストです。品目が乱立したまま個別管理になっていると、費用の全容が見えにくく、改善のチャンスを逃し続けます。①費用の見える化(ABC分析・費用率の把握)→②品目の標準化(採用品目の整理)→③共同購買・購買力強化→④月次KPI管理という4段階のアプローチで、段階的かつ継続的な適正化が可能です。
まず始める一歩は「診療材料費率を計算し、同規模施設の水準と比較すること」です。自院のコストが高いのか低いのかが分かれば、次の打ち手が見えてきます。経営が厳しい時代だからこそ、管理可能なコストを着実にコントロールする体制を整えましょう。
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