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厚労省 病院報告の読み方と経営への活用 — 病床利用率データを経営指標に変換する

監修者 藤井翔悟

2026-10-09 | NPO法人日本はすばらしい 病院経営支援チーム
監修: 藤井翔悟(医療機関経営支援16年・累計1,000院以上)

「毎年秋に厚労省が出している病院報告は知っているが、経営管理に使ったことはない」——こう話す事務長・院長は少なくありません。病院報告は法定統計として毎年公表される全国比較可能なデータであるにもかかわらず、自院の病床利用率を全国平均と比べたことがない医療機関がまだ多いのが現実です。

四病院団体協議会(四病協)の2024年度病院経営定期調査・最終報告によれば、病院の74.6%が医業赤字、65.6%が経常赤字という厳しい状況にあります。この赤字構造に直結するのが「病床が埋まっていない」問題です。入院収益は稼働病床の数に直結するため、病床利用率は病院経営の根幹指標といえます。

しかし、多くの病院では病床利用率を「漠然と把握」するにとどまり、全国平均と比べて何ポイント乖離しているか、その乖離が年間何円の機会損失を生んでいるか、という視点で管理されていません。本記事では、厚労省「病院報告」を無料で活用し、自院の病床利用率を経営指標に変換する方法を解説します。

病院報告とは — 公表形式と収録データの全体像

病院報告の全体構造フロー

病院報告は、医療法に基づく法定統計です。全国の病院・療養病床を有する診療所が毎年10月1日時点のデータを都道府県経由で国に報告し、厚生労働省が集計・公表します。一般に、翌年3〜4月ごろに暫定値(概況)が出て、さらにその年の秋ごろに確定値が公表されるという2段階のスケジュールで運用されています。

収録されている主な項目は次のとおりです。

項目 内容
病院数・病床数 全国・都道府県別の病院総数と許可病床数
1日平均患者数 入院・外来それぞれの1日平均受診者数
病床利用率 入院患者延べ数÷(許可病床数×日数)×100
設置主体別集計 国・公的・私的・医療法人・その他ごとの集計
都道府県別集計 各都道府県の病院・病床状況
病床種別集計 一般・療養・精神・感染症・結核別の内訳

特に活用価値が高いのが設置主体別×都道府県別のクロス集計です。「同じ都道府県にある民間病院の一般病床利用率」という絞り込みができるため、単純な全国平均との比較より精度の高いベンチマークが可能になります。

病院報告は厚生労働省のWebサイト(令和6(2024)年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況)から無料で入手できます。Excelデータも公開されているため、自院データを貼り付けて比較分析するだけで活用できます。

年次統計であることは注意が必要です。病院報告はあくまで特定時点の断面データであり、月次・週次の管理ツールではありません。活用の正しい姿勢は、「年1回、経年トレンドと全国比較のために使う」という位置づけです。

病床利用率の定義と計算式を正しく理解する

病床利用率の計算式と2つの算出ベース

病床利用率の計算式は次のとおりです。

病床利用率(%)= 入院患者延べ数 ÷(許可病床数 × 日数)× 100

たとえば200床の病院が30日間で4,380床日(1日平均146人の入院患者)を記録した場合、病床利用率は 4,380 ÷(200 × 30)× 100 = 73.0% となります。

この計算式で押さえておくべきポイントは**「分母が許可病床数である」**という点です。許可病床とは都道府県から使用許可を受けた病床数であり、現在稼働中かどうかに関わらずカウントされます。もし20床が看護師不足で休床中であっても、分母は200床のままです。このため、許可病床ベースの利用率は、実態より低く出やすい傾向があります。

院内管理においては、「稼働病床ベース」の利用率も別途把握することを強くお勧めします。稼働病床ベースとは、実際に稼働している病床数だけを分母とした計算方式です。

比較軸 許可病床ベース 稼働病床ベース
主な用途 全国比較・病院報告との対比 院内の実態管理
分母 都道府県許可の全病床数 実際に稼働中の病床数のみ
特徴 休床があると低く出る 稼働実態を反映しやすい
適用場面 ベンチマーク・経営会議 日常の病棟管理・改善評価

2つのベースを使い分けることで、「全国平均との差」と「院内の実態」を別々に評価できます。たとえば「許可病床ベースでは73%だが、稼働病床ベースでは88%」という状況であれば、問題は病棟の管理効率ではなく、そもそも休床が多すぎることにある、という判断が下せます。これは改善施策を正しい方向に向けるための重要な情報です。

診療科別・病棟別に分解して把握することも有効です。病院全体の平均が73%であっても、内科病棟が90%・外科病棟が60%という場合、外科の課題対策が最優先であることが一目でわかります。

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全国平均データの読み方 — 病床種別・設置主体別の比較

病床種別の病床利用率イメージ比較

厚生労働省の病院報告(2024年)によれば、全病床の利用率は77.0%、一般病床では73.3%です。一方、病院経営において損益分岐点は一般に80%前後とされています(実際の分岐点は人件費率や診療報酬単価によって施設ごとに異なります)。

この2つの数字が示すことは明確です。全国平均でも損益分岐点を6.7ポイント下回っているのです。四病協の調査で医業赤字が74.6%に達しているのは、この構造的な稼働不足が背景の一つにあります。「なぜ7割の病院が赤字なのか」という問いに対する答えの一端が、この数字に凝縮されています。詳しくはなぜ病院の6〜7割は赤字なのかもあわせてご覧ください。

病床種別で見ると、傾向に大きな差があります。療養病床・精神病床は比較的高稼働の傾向があります。療養病床は長期入院の性質上、一度入院すると退院まで時間がかかるため、稼働が安定しやすい面があります。精神病床も同様に長期入院が多く、高稼働傾向が続いています。

一方、感染症病床は特殊な構造を持っています。平時の稼働率は極めて低く見えますが、これは感染症拡大への備えとして意図的に確保されているものであり、「低稼働=非効率」とは単純に評価できません。

設置主体別の差異も重要です。公立病院と民間病院では構造的な差異があります。公立病院の一部は地域医療の確保のために採算性が低くても運営が求められるケースがある一方、民間病院は収益性を保てなければ存続が難しい立場にあります。令和6年度 公立病院の経営に関する調査によれば、公立病院特有の政策的課題も確認されています。比較する際は同じ設置主体・同じ病床種別という条件を揃えることが、正確なベンチマークの前提です。

データを読む際の注意点として、都道府県間の格差があります。医療需要の高い都市部と、高齢化が進んだ地方では、平均的な病床利用率が異なる場合があります。自院の所在する都道府県の平均値を確認することが、意味ある比較の出発点です。

自院のデータを病院報告と比較する5つの手順

自院データを病院報告と比較する5つの手順

病院報告を活用した自院分析には、次の5ステップを踏むことをお勧めします。

STEP 1:自院の病床利用率を算出する

まず自院の最新年度の病床利用率を、許可病床ベースで計算します。計算対象期間は病院報告と合わせて10月1日時点(または直近の決算年度)とすると比較しやすくなります。病床種別(一般・療養・精神)ごとに分けて算出しておくことが重要です。

STEP 2:比較対象を絞り込む

病院報告から比較対象を絞り込みます。絞り込みの軸は次の3つです。①都道府県(自院と同じ都道府県)、②病床種別(一般・療養・精神など)、③設置主体(公立・医療法人・社会福祉法人など)。この3軸で絞ると、全国平均より精度の高いベンチマークが得られます。

STEP 3:乖離を数値で確認する

自院の利用率と比較対象の平均値との差(ポイント)を確認します。プラスなら平均より高稼働、マイナスなら平均を下回っていることを意味します。さらに損益分岐点(80%前後が一般的な目安、ただし自院の実態に即して設定すること)との乖離幅も合わせて把握します。

STEP 4:乖離要因の仮説を立てる

乖離が確認できたら、その要因を3分類で整理します。①入院需要不足(紹介患者の減少、救急受入体制の問題、地域人口の減少など)、②退院遅延(在院日数の長期化、退院支援の不備、転院先確保の困難など)、③休床の多さ(看護師不足による休床、改修工事、意図的な病床削減など)。どの分類が主要因かで、対策の方向が変わります。

STEP 5:改善目標を期限付きで設定する

要因分析をもとに、改善目標を具体的なポイント数と達成期限で設定します。「半年以内に一般病床利用率を現状から3ポイント改善する」のように定量化することで、進捗管理が可能になります。目標設定の際は、次のセクションで解説する収益インパクト換算もセットで行うと、組織内の優先度を高めやすくなります。

このプロセスは病床利用率の計算式・全国平均・損益分岐点と連動して進めると効果的です。また、資金繰りの観点から改善の優先度を判断したい場合は、病院の資金繰り悪化 7つのサインも参考にしてください。

病床利用率1ポイントが生む収益インパクト

病床利用率1ポイント改善の収益インパクト

病床利用率の改善が「何円の増収になるか」を定量的に示すことは、経営会議での優先度を高めるうえで非常に効果的です。計算の考え方を整理しましょう。

基本計算式(機械計算):病床数 × 利用率1ポイント × 入院単価 × 365日

たとえば病院200床・入院単価5万円の場合、利用率1ポイントの改善は次のように計算されます。

  • 1ポイント(1%)改善 = 200床 × 1% = 毎日2床が追加稼働
  • 2床 × 5万円/日 × 365日 = 年間約3,650万円の増収

これは検証済みの機械計算による試算値です(実際の増収は単価・稼働状況・変動費等によって異なります)。

さらにこの数字を用いると、「損益分岐点ギャップ」が具体的な金額として見えてきます。仮に損益分岐点を80%、現状利用率を73%とすると、差は7ポイントです。

  • 7ポイント × 3,650万円(1ポイントあたり) = 年間約2.6億円のギャップ

これはあくまで「200床・単価5万円」という仮設ケースの試算ですが、経営会議での問題提起として非常に強力なメッセージになります。「現在の稼働率を7ポイント改善できれば、損益分岐点に到達し、年間約2.6億円の増収効果が期待できる」という言い方ができるからです。

令和8年度診療報酬改定で急性期一般入院料1が1,688点から1,874点へ引き上げられ、物価対応料として58点/日が新設されました(GemMedの解説参照)。1点=10円で換算すると入院単価の上昇が見込まれるため、1ポイントあたりの収益インパクトはこの試算より大きくなる可能性があります。ただし算定条件・施設基準は個別に確認が必要です。

なお、病床規模によってインパクトは変わります。小規模病院では1ポイントあたりの絶対額は小さくなりますが、割合で見た改善余地は同様に存在します。病院の人件費率 目安と危険水域で解説しているように、コストの5〜6割を占める人件費は稼働にかかわらず固定的に発生するため、稼働率の改善は限界利益(追加収益のうちコストを引いた部分)を直撃します。この構造を経営陣に伝えることが、病床利用率向上施策への投資判断を促す鍵です。

診療報酬改定の詳細は、診療報酬の算定漏れチェックリストと合わせて確認し、改定後の単価をより正確に把握したうえで試算を更新することをお勧めします。

月次・週次管理に組み込む仕組みを作る

病床利用率 月次管理PDCAチェックリスト

病院報告は年次統計であり、年1回の「外部ベンチマーク」として機能します。経営管理の主軸は、院内で独自に構築する月次・週次のモニタリング体制です。以下の4つのポイントを組み込むことで、病床利用率を動かせる指標に変えることができます。

ポイント1:管理指標の明確化と目標設定

月次管理の起点は目標設定です。病院報告で確認した全国比較結果と、自院の損益分岐点をもとに、病床種別・診療科別の月次目標利用率を設定します。目標は「全国平均を上回る」という相対目標と、「損益分岐点80%に対してX%を達成する」という絶対目標の2軸で持つと管理しやすくなります。

ポイント2:週次モニタリングと早期アラート

月1回の確認では改善が間に合わないことがあります。週次でのモニタリングと、利用率が目標を大きく下回った場合の早期アラート体制を整えることが重要です。具体的には①入院患者数の週次集計、②救急・紹介受診件数の週次把握、③休床病床数と理由の記録、という3点を週次で追います。

ポイント3:原因分析型の整理フォーマット

単純に利用率の数値を追うだけでなく、「なぜ下がっているのか」を3分類(入院需要不足・退院遅延・休床)で分析できる整理フォーマットを整備します。この分類があることで、「紹介件数の問題なのか、退院支援の問題なのか、看護師の問題なのか」が会議で即座に共有できます。

ポイント4:改善アクションの追跡と評価

PDCAを回すには、アクションの実施状況と効果を追跡する仕組みが必要です。たとえば「紹介元クリニックへの定期訪問を月2回実施」というアクションを決めたら、実施状況と入院紹介件数への影響を翌月の経営会議で必ず報告する、という流れを作ります。これが繰り返されることで、施策の有効性が組織的に蓄積されます。

病院報告と院内管理の使い分け

管理ツール 頻度 主な用途
厚労省 病院報告 年1回 全国・都道府県比較、外部ベンチマーク
院内管理表(月次) 毎月 目標対比、原因分析、経営会議報告
院内管理表(週次) 毎週 早期アラート、現場対応

経営会議での共有方法についても触れておきます。病床利用率を「パーセント」だけで報告するのではなく、前述の「1ポイント≒3,650万円(200床・単価5万円の場合)」という収益換算とセットで示すと、経営陣・臨床部門双方にとって危機感が共有されやすくなります。数字の意味を「円」に変換することが、行動変容を促す効果的なコミュニケーションです。

赤字体質からの脱却を本格的に検討している場合は、赤字病院の立て直しロードマップで病床利用率改善を含む包括的なアプローチを参照してください。また、承継・譲渡の選択肢を検討する段階では、後継者不在の病院がとれる4つの選択肢も合わせて確認することをお勧めします。

まとめ

厚労省「病院報告」は、全国の病院と自院を比較する無料のベンチマークツールです。本記事のポイントを整理します。

  • 病院報告は年1回の法定統計で、厚労省Webから無料入手できる。都道府県別・病床種別・設置主体別のクロス集計が可能
  • 病床利用率の全国平均は全病床77.0%・一般病床73.3%(2024年)で、損益分岐点80%を6.7ポイント下回っている
  • 院内管理では許可病床ベース(全国比較用)と稼働病床ベース(実態管理用)を使い分けることが重要
  • 利用率1ポイントの改善は、200床・単価5万円の場合、年間約3,650万円の増収に相当する(機械計算ベース)
  • 月次・週次の管理サイクルに病床利用率を組み込み、乖離の要因を「入院需要不足・退院遅延・休床」の3分類で分析するPDCA体制を構築することが、継続的な改善の鍵となる

データを「読む」から「使う」に変えることで、病院報告は経営改善の出発点になります。まず自院の病床利用率と全国平均を比較することから始めてみてください。

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出典・参考文献

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