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公立病院と民間病院の経営比較 — 赤字構造・補助金・再生戦略の違い

監修者 藤井翔悟

2026-09-17 | NPO法人日本はすばらしい 病院経営支援チーム
監修: 藤井翔悟(医療機関経営支援16年・累計1,000院以上)

病院の医業赤字は74.6%、経常赤字は65.6%に達している——これは四病院団体協議会(以下、四病協)が2024年度に公表した最終調査結果です。「病院の7割は赤字」という言葉は業界では常識になりつつありますが、同じ「赤字」でも公立病院と民間病院では、その構造も深刻さも、そして打ち手もまったく異なります。

公立病院は地方交付税や一般会計繰入金という「安全網」を持ちながらも、意思決定の硬直性と人件費の柔軟性欠如という弱点を抱えています。民間病院は診療報酬のみを頼りに経営を成立させなければならないため、物価・人件費の上昇に直撃されています。本記事では、両者の違いを財務構造・補助金制度・再生戦略の三つの切り口から整理します。理事長・院長・事務長が自院の立ち位置を把握し、次の手を考える際の参考資料としてください。

公立病院と民間病院、赤字率はどう違うか

公立・民間病院の赤字率比較(棒グラフ)

四病協の2024年度病院経営定期調査(最終報告)によると、病院全体での**医業赤字率は74.6%、経常赤字率は65.6%**です。一方、帝国データバンクが2024年度に調査した民間病院(約900法人)では、**営業赤字法人が61.0%**となっており、前年度の54.8%から急増しています。

公立病院については、令和6年度の公立病院経営調査(全国自治体病院協議会)でも、医業収支比率の低下傾向が続いており、多くの施設で医業単独では収支均衡が困難な状況が報告されています。ただし、公立病院は地方交付税や各種補助金によって「経常収支」が黒字化するケースも少なくなく、数字の見かけ上の違いが生じています。

重要な認識: 公立病院の「黒字」の多くは補助金・繰入金による補填であり、医業そのものの収益力が回復したわけではありません。民間病院の赤字が帝国データバンク調査で61.0%に達している背景には、こうした公的補填を受けられないという構造的な違いがあります。

区分 赤字率(2024年度) 主な補填手段
全病院・医業赤字(四病協) 74.6% 診療報酬、補助金(施設による)
全病院・経常赤字(四病協) 65.6% 同上
民間病院・営業赤字(帝国DB) 61.0% 主に診療報酬のみ
公立病院(概況) 施設により異なる 地方交付税・一般会計繰入金あり

なお、病床利用率の全国平均は全病床77.0%・一般病床73.3%(厚労省 病院報告2024)です。損益分岐点は一般に80%前後と言われており、多くの病院が損益分岐点を下回った状態で運営を続けていることが、赤字構造の大きな背景となっています。

なぜ公立病院は赤字になりやすいのか — 構造的な理由

公立病院の収益・補填構造(フロー図)

不採算医療を担う「使命」が収支を圧迫する

公立病院は法的・政策的に「不採算医療」を担うことが求められています。具体的には、二次・三次救急医療・精神科病棟・感染症病床・周産期医療・僻地医療などがこれに当たります。これらは患者1人当たりの医療費が高い割に、診療報酬での回収が難しい領域です。

地方の中小公立病院では、特に採算性の低い診療科(小児科・産婦人科・精神科)を地域医療上の理由で維持しなければならないケースが多く、病床利用率が低くても病棟を閉鎖できないという硬直性があります。民間病院であれば採算割れの診療科を縮小・廃止する経営判断がとりやすいですが、公立病院では住民・自治体議会・医師会への説明責任が伴い、こうした判断が難しくなります。

人件費率の高さと柔軟性の欠如

病院のコストの5〜6割は人件費です。公立病院の職員は地方公務員または準公務員的な処遇が多く、民間と比べて人件費の柔軟な見直しが難しい傾向があります。また、退職金・年金などの将来費用も発生します。収益が悪化した局面でも人件費総額を即座に削減することは困難であり、固定費として収支を圧迫し続けます。

令和8年度診療報酬改定では入院ベースアップ評価料が最大250点へ拡充され、賃上げ財源としての活用が期待されています。しかし公立病院においては、賃上げを診療報酬で全額賄うことは難しく、補助金との組み合わせが求められる場合があります(具体的な算定条件は厚労省通知で確認が必要です)。

意思決定の遅さが機会損失を生む

経営改善には迅速な判断が求められますが、公立病院では首長・議会・住民への説明責任が伴います。民間病院であれば理事会決裁だけで済む診療科の縮小や病床転換も、公立病院では年単位の時間がかかることがあります。この意思決定の遅さは「問題を先送りにしてしまう」リスクと表裏一体です。

民間病院の赤字が深刻化している背景

民間病院の費用構造と収益圧迫要因

物価高騰とエネルギーコストの直撃

2022年以降の物価高騰は、病院経営に深刻な打撃を与えました。薬剤費・医療材料費・水道光熱費の急騰は、診療報酬が公定価格で固定されている医療機関にとって「コスト上昇を価格転嫁できない」という構造的問題を引き起こしました。令和8年度診療報酬改定ではこれへの対応として「物価対応料」が新設されましたが(急性期一般入院料1で58点/日など)、全コスト増に見合うかは施設の規模・機能により異なります。

人材確保コストの増大と倒産増加

医師・看護師・コメディカルの採用・定着コストは継続的に上昇しています。医療機関の倒産は2025年に66件、休廃業解散は823件と2年連続で過去最多を記録しました(帝国データバンク2025年調査)。この背景には人件費の上昇に対応できない経営体力の不足があります。また、診療所経営者の56.7%が70歳以上という高齢化も、事業継続を難しくしている要因の一つです。

診療報酬だけでは賄えないコスト構造

民間病院の収益は診療報酬に全面的に依存しており、その改定サイクル(原則2年ごと)に経営が左右されます。令和8年度改定は本体プラス3.09%(約30年ぶりの3%超)と評価されていますが、その内訳は賃上げ対応+1.70%・物価対応+1.29%・政策改定+0.25%・適正化▲0.15%となっています。この改定率がすべての施設に均等に恩恵をもたらすわけではなく、機能・規模・算定状況によって実態収入の増加幅は大きく異なります。

特に、改定施行が2026年6月1日(令和8年6月)である点に注意が必要です。年度途中での施行となるため、2026年度の年間収支への影響は半年分に相当します。

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補助金・支援制度:公立だけが持つ「安全網」の実態

補助金・支援制度の公立vs民間比較

公立病院の主な財政的支援

公立病院は以下の財政的支援を受けることができます。これらの支援が公立病院の「存続の余力」を生み出しています。

地方交付税(特別交付税・普通交付税) 公立病院が担う救急・精神・感染症等の不採算医療に対し、地方交付税制度の中で財源措置が講じられています。地方の基幹病院が赤字続きでも直ちに閉院に至らない背景の一つがこの仕組みです。

一般会計繰入金 設置自治体の一般会計から病院事業会計への繰り入れ。多くの公立病院で数億〜数十億円規模が毎年投入されています。ただし自治体の財政状況によってはこの繰入れが減少・打ち切りとなるリスクもあります。

病院事業債(経営改善推進事業債等) 施設整備・改修・経営改善のための地方債。公的資金を活用することで低利での調達が可能です。

国の補助金 救急医療・感染症対応・ICT化等の政策課題に対応する補助金が各種存在します。ただし補助要件や対象施設に条件があるため、すべての公立病院が恩恵を受けられるわけではありません。

民間病院が活用できる主な支援

民間病院が頼れる公的支援は相対的に限られていますが、以下が代表的です。

福祉医療機構(WAM)融資 低利の長期融資制度であり、病床整備・設備更新・資金繰りの安定化に活用できます。WAMの病院経営動向調査(WAM短観)によると、多くの民間病院がこの融資を活用しており、経営改善局面での重要な資金調達手段となっています。

診療報酬の機能加算 地域包括ケア病棟・回復期リハビリ病棟・療養病棟等の機能に応じた診療報酬加算が収益の柱になります。令和8年度改定では看護・多職種協働加算(加算1:277点/加算2:255点)も新設されており、算定条件を満たす施設では大きな収益改善となり得ます(算定要件の詳細確認が必要です)。

支援の種類 公立病院 民間病院
地方交付税 ◎ あり ✕ なし
一般会計繰入金 ◎ あり ✕ なし
病院事業債 ◎ あり ✕ なし
WAM融資 ○ 利用可 ○ 利用可
診療報酬加算 ○ 算定可 ○ 算定可
設備整備補助金 ◎ 手厚い △ 限定的

このように、同じ「赤字」であっても、公立病院は複数の公的安全網によって経営継続が支えられるのに対し、民間病院は収益の自助努力と診療報酬改定による回収が主な頼みの綱となっています。

再生戦略の選択肢:公立と民間では何が違うか

再生手法の選択マトリクス(公立・民間別)

公立病院の再生選択肢

① 経営強化プランの策定・実施 総務省は2022年に「公立病院経営強化プラン」の策定を全国の自治体に求め、機能再編・連携強化・経営改善の具体的目標設定を促しました。プランは外部有識者を交えた策定が求められており、PDCAサイクルによる進捗管理が必要です。プランを「作ることが目的」にならないよう、数値目標の達成管理を経営陣が主体的に行うことが求められます。

② 指定管理者制度への移行 病院の設置・所有は自治体が保持しつつ、経営管理を民間事業者(医療法人・独立行政法人等)に委ねる制度です。民間のスピード感ある意思決定と公的使命の両立を目指す手法として注目されています。一方、管理者の選定・業務仕様の設計が不適切だと経営改善効果が出ないリスクもあります。

③ 民営化・売却 病院そのものを民間医療法人や社会医療法人に売却・譲渡するケースも増えています。地域の医療機能を維持しながら自治体の財政負担を軽減できますが、移行後の医療の質・住民サービスの確保について十分な検討が必要です。

④ 統廃合・機能再編 同一地域の複数の公立病院を統合して機能分化を図る手法です。病床削減を伴うため地域住民の理解が不可欠ですが、重複機能の解消・スケールメリット確保に有効です。

民間病院の再生選択肢

① 収益改善(入院単価・稼働率の同時改善) 病床200床・入院単価5万円の病院では、稼働率が1ポイント上がると年間約3,650万円の増収になります(2床×5万円×365日の機械計算)。まず「稼働率と単価のどちらに問題があるか」を診断することが出発点です。単価の低い機能を高単価機能に転換する、または紹介を増やして稼働率を高める、という複合的なアプローチが求められます。

② 費用構造の見直し 人件費・薬剤費・委託費の三大費用を中心に、適正水準との乖離を確認します。特に人件費率(通常50〜60%)が異常値を示している場合は、職種別・部門別の詳細分析が必要です。ただし、安易な人件費削減は人材流出・サービス低下につながるリスクがあるため、採用計画・業務効率化との一体的な設計が重要です。

③ 機能転換 急性期病床から回復期・療養・地域包括ケア等への転換は、収益構造を変える有力な手段です。転換後の単価・稼働見込みを事前にシミュレーションし、中期経営計画に組み込むことが必要です。令和8年度改定では地域一般入院料1が1,176→1,290点に改定されており、地域密着型機能への転換が経営的にも後押しされています。

④ 第三者承継(M&A) 医療法人の持分譲渡・事業譲渡・合併等による第三者承継が選択肢になります。医療機関の後継者不在率は6割超に達しており、健全な経営体力を持った段階で承継を検討することが重要です。赤字が深刻化した後では譲渡価格が低下するだけでなく、買い手が見つかりにくくなります。

公民連携(官民連携)という第3の道

公民連携の導入ステップ(タイムライン)

「公立のままでは赤字が続く、かといって完全な民営化には地域の反発がある」——こうしたジレンマを抱える病院にとって、公民連携(官民連携)モデルは現実的な選択肢として注目されています。

主な公民連携の形態

指定管理者制度 自治体が施設を保有したまま民間が経営を担う仕組みです。「病院を守りたい」という地域感情を尊重しながら経営効率化を図ることができます。契約期間・業務仕様・モニタリング体制の設計が成否を左右します。

地域医療連携推進法人 地域内の複数の医療機関(公立・民間問わず)が参加する法人格を持つ連携組織です。機能分担・共同購買・人材融通等を行うことができ、2017年の創設以来、各地で設立事例が増えています。公立と民間の強みを組み合わせながら地域医療を守る「第4の選択肢」として機能します。

経営受託・コンサル型支援 民間の経営ノウハウを活用し、病院の経営管理を委託する形態です。完全な売却とは異なり病院の法的主体は変わらないため、地域のステークホルダーへの説明がしやすい場合があります。ただし委託先の実績・方針との整合性を慎重に確認することが必要です。

公民連携を成功させる3条件

一般に、公民連携がうまく機能するためには次の3条件が揃うことが重要とされています。

条件1:地域の医療ニーズの明確化 その地域で本当に必要な医療機能を定義できているかが前提です。単に「病院を残す」のではなく「何のために残すか」を明確にしなければ、連携後も経営は改善しません。

条件2:役割分担の明確化 公的責任と民間裁量の境界線を事前に明確にしておくことが不可欠です。特に「民間に任せた結果、採算不採算を問わず不採算医療の提供をやめてしまう」リスクをどう防ぐかが契約上の課題となります。

条件3:出口戦略の共有 10〜20年後にどういった医療機能を持つ施設であるべきか、そのビジョンを自治体・民間・地域住民が共有していることが長期的な成功の鍵です。短期の財政問題解決のみを目的とした連携は、根本的な課題を先送りするだけになりかねません。

まとめ

公立病院と民間病院の経営を比較すると、同じ「赤字74%」という数字の裏に、まったく異なる構造的背景があることがわかります。

公立病院は不採算医療の担い手として補助金・交付税という安全網を持ちながらも、意思決定の硬直性・人件費の柔軟性欠如・政治的制約という構造的な弱点を抱えています。再生の鍵は、経営強化プランの実効的な運用、指定管理者制度・民営化などの外部資源の戦略的活用にあります。

民間病院は診療報酬のみで経営を成立させなければならないため、物価・人件費の上昇に直接さらされています。令和8年度改定の給付改善を最大限活用しながら、稼働率・単価・費用の三方向から経営診断を行い、必要であれば機能転換や第三者承継も視野に入れた中長期計画を立てることが急務です。

どちらの形態の病院においても、現状の課題を正確に把握し、適切な手順で改善を進めることが地域医療を守る第一歩です。「赤字だから仕方ない」という諦めではなく、構造を正しく理解したうえでの戦略的アクションが求められています。

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