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緩和ケア病棟の病床利用率を上げる — 運用と経営の実務ポイント

監修者 藤井翔悟

2026-10-15 | NPO法人日本はすばらしい 病院経営支援チーム
監修: 藤井翔悟(医療機関経営支援16年・累計1,000院以上)

緩和ケア病棟は、がん患者やその家族に寄り添う医療の最前線です。しかし、理事長・院長・事務長が頭を悩ませる課題のひとつが、「病床利用率が安定しない」という現実です。

厚生労働省の病院報告(2024年)によると、全病床の全国平均利用率は77.0%、一般病床では73.3%にとどまり、損益分岐点とされる80%前後を下回る施設が多数存在します。緩和ケア病棟は性質上、こうした利用率変動の影響をとくに受けやすい病棟類型です。空床が続けば収益が落ち込み、必要な人員や環境への投資も難しくなります。

本記事では、緩和ケア病棟の病床利用率が低下する構造的な要因を整理し、経営担当者がすぐに着手できる具体的な改善策を、運用・連携・算定要件の3つの軸で解説します。

緩和ケア病棟が抱える「利用率ジレンマ」とは

緩和ケア病棟の病床利用率と収支の関係(概念図)

緩和ケア病棟は、算定できる入院料が比較的高く設定されており、適切に稼働させれば病院全体の収益に貢献する病棟です。一方で、患者の転帰が「在宅退院または死亡退院」に集中するという構造的な特徴があります。退院後は空床が生じ、次の患者が入院するまでのリードタイムが利用率を下押しします。

この「入れ替わりのタイムラグ」こそが、緩和ケア病棟固有の利用率ジレンマです。一般急性期病棟のように退院翌日に新入院を組み込むことが難しく、ベッドが空いたままになる日が積み重なります。

損益分岐点は一般に80%前後とされます。200床の病院で入院単価5万円の場合、利用率が1ポイント動けば年間約3,650万円の収益差が生まれる計算になります。緩和ケア病棟が10〜20床規模であっても、利用率の変動は病院経営全体に無視できない影響を与えます。

利用率の目安 収益への影響
80%以上 概ね損益分岐を超え、安定稼働域
70〜80% 収支がタイトになりやすい要注意ゾーン
70%未満 恒常的な赤字リスクが高まる

上記はあくまで概念的な目安です。実際の損益分岐点は施設の規模・人員体制・固定費構造によって異なりますので、自院の数字で検証することが重要です。

利用率が低下しやすい4つの構造的要因

利用率低下の4つの構造的要因(比較表)

緩和ケア病棟の利用率が思うように上がらない背景には、大きく4つの構造的要因があります。

要因① 紹介元との連携が不十分

緩和ケア病棟への入院は、かかりつけ医や急性期病棟からの紹介経由が中心です。紹介元との関係が弱いと、「いまのタイミングで入院できるか」という問い合わせ自体が来なくなります。地域連携室のスタッフが紹介元との定期的な情報交換を怠ると、空床があっても埋まらないという事態が起きます。

要因② 在院日数の長期化

症状が安定した患者が「在宅に帰れない」「転院先が見つからない」という理由で緩和ケア病棟に長期滞在するケースがあります。本来は在宅緩和ケアや一般療養への移行が望ましい患者が占床し続けると、新規患者の受け入れ余地が失われます。

要因③ 家族の意思決定遅延

緩和ケアへの移行は患者・家族にとって心理的ハードルが高いテーマです。「まだ積極的治療を続けたい」という家族の希望によって、医学的には緩和ケアが適切なタイミングでも入院の意思決定が遅れるケースがあります。この遅延が入院件数の伸び悩みに直結します。

要因④ 急な死亡退院による空床の突発的発生

緩和ケア病棟では死亡退院が一定数あり、予測しにくいタイミングで空床が生まれます。平日・週末を問わず発生するため、入院候補者リスト(ウェイティングリスト)を整備しておかないと、空床期間が長引きます。

入退院支援の強化が利用率を左右する

入退院支援と緩和ケア病棟の紹介経路(フロー図)

利用率を安定させる最初の一手は、入口と出口の管理を組織として仕組み化することです。

緩和ケア外来を「入院前の入口」として活用する

緩和ケア外来(緩和ケア病棟の外来機能)を設置し、入院候補患者を事前にスクリーニングする体制が有効です。外来で患者・家族との関係性を構築しておくことで、入院のタイミングが来たときにスムーズな移行が可能になります。入院まで一定期間かかる場合でも、候補患者をリスト管理することで空床発生時の迅速な対応につながります。

地域連携室による紹介元ネットワークの強化

地域連携室のスタッフが定期的に院外の紹介元(開業医・急性期病院・がん拠点病院)を訪問し、「緩和ケア病棟の空き状況」「入院基準」「相談窓口」を周知することが重要です。一般に、紹介件数の多い施設は限られた少数の紹介元に偏る傾向があります。上位紹介元との関係深化と、潜在的な新規紹介元の開拓を並行して進めましょう。

入退院支援加算の算定可能性を確認する

令和8年度の診療報酬改定では入退院支援機能の評価が見直されています。自院の体制が入退院支援加算の算定要件を満たしているか、または満たせる可能性があるかを確認することをお勧めします。算定可否・要件の詳細は厚生労働省の告示等で確認が必要です。適切に算定できれば、支援体制への投資を収益でカバーする道が開けます。

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在宅復帰・在宅看取りとの連携でベッドを回転させる

在宅連携による緩和ケア病床の回転モデル(フロー図)

病床利用率を持続的に高めるには、「入れる」だけでなく「出せる」体制の整備が欠かせません。緩和ケアの文脈で「出す」とは、在宅緩和ケアへの移行を支援することを意味します。

在宅緩和ケアとの「往来モデル」を設計する

緩和ケア病棟と在宅医療機関・訪問看護ステーションを結ぶ「往来モデル」は、病床を効率よく使いながら患者の意向に沿ったケアを提供できる仕組みです。具体的には次のような流れになります。

  1. 症状が安定した患者を在宅に戻す
  2. 在宅で症状が悪化した場合、速やかに緩和ケア病棟に再入院する
  3. 緩和ケア病棟・在宅チーム・家族が情報を共有し、切れ目なくケアを継続する

この仕組みがあると、患者・家族も「必要なときはすぐ入院できる」という安心感を持ちながら在宅療養できるため、退院を促進しやすくなります。

訪問診療・訪問看護との協定を結ぶ

自院が訪問診療に対応していない場合は、地域の訪問診療クリニックや訪問看護ステーションと連携協定を締結することが実用的です。退院患者を確実にフォローアップする体制があれば、在宅移行を勧めやすくなり、結果として病棟のベッドが次の患者に開放されます。

連携協定を結ぶ際は、次の点を明確にしておくことが重要です。まず、緊急時の再入院基準を具体的に取り決めることで、患者・家族が「いざとなれば病院に戻れる」と安心できます。次に、情報共有の方法(電話・FAX・ICT連携ツール)を決め、担当者同士が迅速に連絡を取れる体制を整えます。こうした事前の取り決めが在宅療養の継続性を支え、不必要な再入院や病棟への滞留を防ぎます。

家族支援カンファレンスの定期開催

在宅看取りや在宅移行への転換期には、患者・家族・医療ソーシャルワーカー・看護師・医師が同席する家族支援カンファレンスが有効です。家族の不安を丁寧に聴き、退院後のサポート体制を具体的に示すことで、意思決定が促進されます。

福祉医療機構(WAM)の病院経営動向調査でも、在宅復帰率の改善が稼働率・収益指標の改善と連動する傾向が確認されています。単なる「ベッド空け」ではなく、患者・家族の意思を尊重しながら行う在宅移行支援が、持続可能な運営につながります。

算定要件と人員配置の最適化

緩和ケア病棟の人員配置と収支バランス(棒グラフ)

緩和ケア病棟の収益構造を安定させるには、算定要件を満たす最小限の人員体制と適切な病床規模の組み合わせを設計することが重要です。

人件費率の管理

病院全体では人件費がコストの5〜6割を占めることが一般的です。緩和ケア病棟は24時間の手厚いケアが必要なため、看護師・介護士の夜間配置コストが相対的に高くなります。病棟の人員体制を定期的に見直し、算定要件を維持しながら過剰配置を防ぐことが求められます。

以下に主な費用構造の確認ポイントを整理します。

項目 確認すべきポイント
看護師配置 算定要件上の看護師比率を満たしているか
夜勤体制 実態に合った夜勤人数になっているか
多職種チーム 緩和ケア認定看護師・MSWの適正配置
非常勤活用 常勤換算で要件を満たしつつコストを抑制

令和8年度改定を踏まえた算定体制の点検

令和8年度診療報酬改定(2026年6月施行)では、本体改定率+3.09%という約30年ぶりの大幅増となりました。内訳は賃上げ対応+1.70%・物価対応+1.29%・政策改定+0.25%・適正化▲0.15%です。緩和ケア病棟に関連する加算や算定要件も見直されており、自院の届出状況が最新の要件に合致しているかを医事課・看護部と合同で点検することをお勧めします。算定できる加算・要件の詳細は厚生労働省の個別改定項目(令和8年度)で確認が必要です。

多職種チームの機能を収益に結びつける

緩和ケア病棟では、医師・看護師・薬剤師・管理栄養士・MSW(医療ソーシャルワーカー)・チャプレンなど多職種が連携します。こうした多職種協働は患者ケアの質を高めるだけでなく、「看護・多職種協働加算」(令和8年度改定で新設、加算1:277点・加算2:255点)の算定候補にもなりえます。ただし算定可否は施設基準を確認する必要があります。

利用率改善の管理指標とPDCAの回し方

利用率改善のPDCAサイクルと管理指標(タイムライン)

利用率の改善は、「やってみたら上がった」という偶然に頼るのではなく、管理指標を定めてPDCAを継続的に回すことで初めて定着します。

モニタリングすべき指標

指標 把握の頻度 活用のポイント
月次病床利用率 毎月 目標値(例: 80%)との差を把握
空床日数(空床延べ日数) 毎月 入れ替えタイムラグを可視化
平均在院日数 毎月 長期化している患者の抽出
退院先別割合(在宅/転院/死亡) 毎月 在宅移行率の動向を把握
紹介元別入院件数 四半期 紹介元ネットワークの偏りを把握
ウェイティングリスト登録件数 随時 潜在需要の可視化

月次カンファレンスで全員が数字を共有する

病棟師長・地域連携室長・医事課長・院長補佐が月1回集まり、上記指標を共有するカンファレンスを設けることが推奨されます。それぞれが把握している「問題」と「改善の糸口」を持ち寄ることで、組織としての対応策が具体化します。

改善アクションの例

  • 利用率が70%を下回った月: ウェイティングリストの活用状況を点検、地域連携室の活動を強化
  • 平均在院日数が施設目標を超えている: 在宅移行支援の個別ケースレビューを実施
  • 紹介元が特定の2〜3施設に偏っている: 新規紹介元への営業訪問を計画

利用率改善の進め方:短期・中期の視点

利用率改善には短期と中期の2つの視点が必要です。短期(1〜3か月)では、ウェイティングリストの運用を徹底し、空床が出た際に24時間以内に次の患者を受け入れられる体制を整えることが優先されます。これだけで利用率が数ポイント改善する施設も少なくありません。

中期(3〜12か月)では、在宅連携の仕組みを構築し、紹介元ネットワークを広げることで、安定した患者流入を確保します。また、令和8年度改定の算定要件を点検し、新たに算定できる加算があれば届出を整備することで、利用率の改善効果を収益に結びつけることができます。改善の速度は施設規模や地域性によって異なりますが、まずは現状の数字を正確に把握し、最も影響の大きい課題から手をつけることが王道です。

病院全体の経営改善においても、緩和ケア病棟の利用率は重要な指標のひとつです。四病院団体協議会(四病協)の2024年度病院経営定期調査最終報告では、病院の医業赤字が74.6%に達しているとされており、各病棟の収益貢献を底上げする取り組みが急務とされています。緩和ケア病棟も例外ではなく、経営視点からの管理強化が求められる時代です。

まとめ

緩和ケア病棟の病床利用率を改善するには、以下の3つの柱を同時に進めることが重要です。

  1. 入口の整備: 緩和ケア外来の活用、地域連携室による紹介元ネットワークの強化、ウェイティングリストの運用
  2. 出口の整備: 在宅移行支援の仕組み化、訪問診療・訪問看護との連携協定、家族支援カンファレンスの定期開催
  3. 算定・人員の最適化: 令和8年度改定要件の点検、多職種チームの活用、月次PDCAの定着

利用率の改善はケアの質の向上とトレードオフになるものではありません。むしろ、適切なタイミングで必要な患者に緩和ケアを届けることが、利用率の安定にもつながります。経営視点とケアの視点を統合した取り組みが、緩和ケア病棟の持続可能な運営を支えます。

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