病院の理事長・院長・事務長が経営を判断するうえで、最も重要な財務指標のひとつが「利益率」です。ところが、「医業利益率」「経常利益率」「純利益率」の違いを正確に理解していないと、「帳簿の上では黒字なのに資金が足りない」「赤字の原因がどこにあるのか特定できない」という状況に陥ります。

四病院団体協議会の2025年度病院経営定期調査によると、病院全体で**医業赤字が74.6%・経常赤字が65.6%**に達しており、多くの病院が深刻な利益率の低下に直面しています。同じ赤字でも、「医業では赤字だが補助金・繰入金で経常は黒字」という病院もあれば、「複合的な要因で医業・経常ともに赤字」という病院もあります。どの利益率を改善すべきかは、自院の財務構造を正確に把握してからでないと、的外れな施策につながりかねません。

本記事では、病院経営者が押さえるべき利益率の定義・現状データ・利益率を下げる4大要因を整理し、収益改善と費用削減の両面から取り組む改善ロードマップを体系的に解説します。

医業利益率・経常利益率・純利益率の定義と違い

病院経営の利益率は、大きく3つの段階で把握します。それぞれの定義と意味の違いを理解することが、改善策を打つ出発点です。

病院の3種類の利益率 — 定義と意味

医業利益率とは、医療サービス本体の収益性を示す指標です。計算式は「医業利益 ÷ 医業収益 × 100(%)」です。医業収益(入院収益+外来収益+その他医業収益)から医業費用(人件費・材料費・委託費・減価償却費等)を引いた医業利益の割合であり、病院の本業がどれだけ稼げているかを示します。外部からの補助に頼らない、持続可能な経営を判断する最重要指標です。

経常利益率は、医業利益に医業外収益(補助金・寄付金・受取利息等)を加え、医業外費用(支払利息等)を引いた経常利益の割合です。計算式は「経常利益 ÷ 医業収益 × 100(%)」で使われることが一般的です。公立病院では一般会計からの繰入金(補助金)が医業外収益に含まれるため、医業赤字でも経常黒字になりやすいという特性があります。民間病院では、経常利益率が医業利益率に近い値になることが多く、医業外費用(主に支払利息)がどれだけ経常利益を圧迫しているかを把握できます。

**純利益率(当期利益率)**は、経常利益に特別損益(資産売却益・引当金の戻入・固定資産の除却損等)を加減した後の最終的な利益割合です。特別損益は臨時的な要因を含むため、単年度で大きく変動することがあり、経営の実力値を評価する際には経常利益率を重視する方が適切です。

病院経営において最も重視されるのは医業利益率です。損益分岐点は一般に病床利用率80%前後とされており、利用率が80%を下回ると医業赤字に転落しやすくなると言われています。また、医療法人の会計は医療法人会計基準に基づいており、一般企業の会計基準とは勘定科目の定義が異なる場合があります。病院の決算書を読む際は、専門の税理士・公認会計士に確認することが重要です。

病院の利益率の現状データ — 調査が示す実態

現在の病院経営の実態について、信頼できる複数の調査データをもとに確認します。経営改善の第一歩は、業界全体の現状を客観的に把握することです。

病院経営の現状データ — 赤字割合と病床利用率

四病院団体協議会(四病協)の2025年度病院経営定期調査(最終報告)によると、**医業収支差率(医業利益 ÷ 医業収益)はマイナス圏が続いており、医業赤字が74.6%・経常赤字が65.6%**に達しています。GemMedの解説によれば、物価高騰と人件費上昇が主因とされており、「医業収益は増えているが、費用の伸びがそれを上回っている」という構造的な問題が継続しています。

帝国データバンクの2024年度調査では、民間病院約900法人の営業赤字が61.0%(前年度は54.8%)と、赤字割合が年々拡大しています。また、医療機関全体の倒産・休廃業解散件数は2025年に過去最多水準を記録しており、利益率の改善が急務であることを示しています。

厚生労働省の病院報告(2024年)によると、**病床利用率の全国平均は全病床77.0%・一般病床73.3%**です。損益分岐点の目安(80%前後)を下回っており、入院収益が構造的に不足しやすい状況が続いています。

一方、令和8年度診療報酬改定(本体+3.09%、約30年ぶりの3%超、施行2026年6月1日)では、入院基本料の引き上げや物価対応料の新設など、一定の収益改善につながる改定が行われました。急性期一般入院料1は1,688点から1,874点へ引き上げられており、稼働率の高い急性期病院では増収効果が見込まれます。ただし、施設基準の維持コストやベースアップ対応費用も増加するため、純粋な利益率改善には各病院の個別条件の確認が必要です。

福祉医療機構(WAM)の病院経営動向調査では、入院収益・外来収益ともに伸びが鈍化する一方、材料費・委託費・人件費が増加し、医業費用比率が上昇していることが繰り返し示されています。これらのデータが示すのは、「収益を増やすだけでは不十分であり、費用構造の見直しも並行して行う必要がある」という事実です。

利益率を下げる4大要因

病院の利益率が低下する要因は、大きく4つに分類できます。それぞれの構造を理解することで、改善施策の優先順位をつけやすくなります。

利益率を下げる4大要因

要因①: 人件費率の高止まり

病院のコストの5〜6割は人件費が占めます。特に近年は、医師・看護師の採用競争の激化と最低賃金の引き上げにより、人件費率(人件費 ÷ 医業収益)の上昇が続いています。一般に、人件費率が医業収益の60%を超えると、材料費・設備費・減価償却費を賄うための余地がなくなり、医業赤字に陥りやすくなります。令和8年度改定で入院ベースアップ評価料が最大250点へ拡充されましたが、これは賃上げ費用の一部を診療報酬で補填する仕組みであり、算定できていない病院は費用だけが増加する結果になります(算定候補・要確認)。

要因②: 病床利用率の低下

入院収益は「病床数 × 病床利用率 × 入院単価 × 365日」で決まります。病床利用率が低下すると、固定費(人件費・減価償却費)が変わらないまま収益が減少するため、医業利益率が急速に悪化します。厚労省の病院報告(2024年)によると一般病床の全国平均は73.3%であり、損益分岐点の80%前後を大きく下回っています。200床・入院単価5万円の病院では、利用率が1ポイント低下するだけで年間約3,650万円の減収になります。

要因③: 材料費・委託費の増加

診療材料費・医薬品費の価格上昇と、給食・清掃・洗濯など外部委託費の値上がりが費用を押し上げています。診療報酬への価格転嫁が追いつかないため、材料費率(材料費 ÷ 医業収益)・委託費率が上昇し、医業費用全体が膨らみます。物価高騰が続く局面では、購買管理・委託契約の定期的な見直しが利益率改善に直結します。

要因④: 医業外費用(支払利息)の増加

設備更新・建替えのための借入金残高が大きい病院では、支払利息が経常利益を圧迫します。近年の金利上昇局面では、既存借入の金利が変動する場合、経常利益率への影響が大きくなります。借入条件の見直し(リスケジュール・金利交渉)は経常利益率に直接影響するため、財務担当者と金融機関との定期的な対話が重要です。

収益面からの改善アプローチ — 3つの軸

利益率を改善するための収益増加策は、「入院収益の最大化」「外来収益の安定化」「医業外収益の活用」の3軸で整理できます。

収益面の改善アプローチ — 3つの軸

入院収益の最大化では、病床利用率の向上が最優先です。紹介ルートの強化・退院支援の効率化・転棟・転院の円滑化により、1床あたりが稼ぐ日数を増やします。また、算定可能な加算の取りこぼしがないかを定期的に点検することが重要です。令和8年度改定で新設された看護・多職種協働加算(加算1:277点/加算2:255点)や入院ベースアップ評価料(最大250点へ拡充)は、施設基準を満たしているか確認したうえで算定候補として検討する価値があります。

入院単価を上げるためには、高機能加算の算定強化・患者ミックスの最適化(より高点数の患者層へのシフト)・1日入院単価の日次管理が有効です。特に、DPC対象病院では機能係数を高める施策(診療の質・病院情報の係数向上)が単価改善につながります(詳細は病院ごとの個別確認が必要)。

外来収益の安定化では、かかりつけ医機能の強化・専門外来の充実により、継続的な受診患者を確保します。紹介・逆紹介の仕組みを整え、急性期病院では紹介患者比率を高めることで、機能強化加算等の算定につながります(算定候補・要確認)。地域医療連携室の体制強化は、入院・外来双方の収益改善に波及効果をもたらします。

医業外収益の活用では、病院が使える補助金・交付金(設備整備補助金・賃上げ支援補助金等)の最新情報を定期的に確認し、申請漏れを防ぎます。WAM(福祉医療機構)の低利融資を活用した設備投資も、費用対効果を試算したうえで検討に値します。一方、医業外収益への過度な依存は、本業の収益力低下を隠蔽するリスクがあるため、あくまで医業利益率の改善と並行して活用することが重要です。

費用面からの改善アプローチ — コスト適正化の実務

費用削減は、「削りやすい費目」と「削ると医療の質や職員の定着に影響する費目」を区別して取り組むことが重要です。安易な人員削減は離職率上昇につながり、採用コストの増加と収益の長期的な悪化を招くリスクがあります。

費用削減アプローチ — コスト項目別の改善策

医薬品・診療材料費の適正化では、医薬品・診療材料の共同購買(グループ購買・GPO)への参加や後発医薬品への切り替え推進により、購買コストを削減します。各診療科の材料費を「部門別収益」と対比して見える化すると、過剰使用・重複在庫が特定しやすくなります。ただし、品質・安全性に関わる材料の削減は患者安全に影響するため、現場と医事部門が協議しながら進めることが不可欠です。

委託費の見直しでは、給食・清掃・洗濯・医療事務の外部委託費について、定期的に競争入札・相見積もりを実施します。委託費は一度契約すると更新時まで変更が難しいため、契約更新のタイミングを逃さず交渉することが重要です。また、委託の範囲が適正かを再評価し、直営と外部委託のコストを比較したうえで最適な形態を選択します。

人件費の「量」から「効率」へでは、人員削減ではなくタスクシフティング(医師の業務を看護師・医療事務等に移管するタスクシフト・シェア)や電子カルテ・AI診断支援の活用によって、「同じ人数でより多くのアウトプット」を目指す生産性向上アプローチを優先します。残業・時間外勤務の適切な管理は、人件費率の改善と職員満足度の向上の両方につながります。人件費削減は、採用・定着が困難な医療人材市場においては、長期的に大きなコストを生む可能性があることを念頭に置く必要があります。

設備費の最適化では、不要な保守契約の見直し・不使用機器の整理・リースと購入の費用対効果比較を定期的に実施します。大型設備の更新にあたっては、投資回収期間を試算し、WAM融資や補助金も活用して資金調達コストを抑えることが重要です。

利益率改善ロードマップ — 短期・中期・長期の戦略

利益率の改善は、短期・中期・長期の時間軸で施策を組み合わせ、PDCAサイクルを回し続けることで実現します。

利益率改善ロードマップ — 短期・中期・長期

**短期(〜6ヶ月)**では、まず「現金を守る」施策を優先します。算定漏れの総点検(加算・管理料の再確認)、病床利用率の週次モニタリング体制の構築、委託費の相見積もり・交渉、キャッシュフロー表の作成と月次管理の開始、そして自院の医業利益率・経常利益率の現状把握が最初の一手です。「何が問題なのか」を数値で把握しなければ、改善施策の優先順位を正しくつけることはできません。

**中期(6ヶ月〜2年)**では、収益構造の根本改善に着手します。部門別損益管理体制の整備(診療科ごとの収支把握)・患者紹介経路の強化・地域連携室の機能拡充・医薬品の共同購買への移行・令和8年度改定の新加算(多職種協働加算等)の算定体制整備・既存借入条件の見直しなどが該当します。この段階では、外部の医療経営コンサルタントや専門税理士の関与が改善スピードを高めることがあります。

**長期(2年〜)**では、病院の機能そのものを見直す構造改革に踏み込みます。機能分化・病床転換の検討(赤字診療科の縮小・高収益機能への移行)、人材育成・定着施策による離職率改善、設備投資(電子カルテ更新・建替え)の計画と資金調達、承継・M&A戦略の検討、DX・AI活用による生産性向上などが含まれます。これらの施策は、帝国データバンクが2025年の調査で示した「倒産・休廃業解散が過去最多水準」という厳しい現実を踏まえ、早め早めに着手することが重要です。

診療所経営者の56.7%が70歳以上という現状(帝国データバンク調査)を鑑みると、「後継者問題」と「利益率改善」は切り離せないテーマです。利益率が低い病院ほどM&Aや承継時の評価が低くなり、選択肢が狭まります。逆に、利益率を改善しながら次世代に引き継ぐ体制を整えることで、地域医療の継続と経営者自身のエグジットを両立できます。

まず自院の利益率の現状を正確に把握し、4大要因のどれが主因かを特定したうえで、短期・中期・長期の施策を組み合わせて実行することが、持続可能な病院経営への道筋です。

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出典・参考文献

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