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経営指標・データ

病院経営の実態データ2026 — 四病協・帝国DB・厚労省の主要指標を読み解く

監修者 藤井翔悟

2026-09-27 | NPO法人日本はすばらしい 病院経営支援チーム
監修: 藤井翔悟(医療機関経営支援16年・累計1,000院以上)

「うちの病院は経営的に問題ないはずだ」と思っていた理事長が、突然の資金ショートに直面する——病院再生の現場では、こうした事例を繰り返し見てきました。経営の実感と財務の数値が乖離している背景には、「業界全体がどれほど厳しい状況にあるか」を正確に把握できていないことが多くあります。

本記事では、四病院団体協議会(四病協)・帝国データバンク・厚生労働省・福祉医療機構(WAM)という信頼性の高い4つの調査主体が2024〜2026年にかけて公表したデータを体系的に整理し、そこから読み取れる経営上の示唆を解説します。データを「知っている」から「使える」レベルに引き上げることが、本記事の目的です。


1. 四病協2024年度調査:医業赤字74.6%という現実

四病協 2024年度 医業赤字率・経常赤字率・民間病院赤字率の棒グラフ

四病院団体協議会(日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会の4団体)が2025年11月に公表した「2025年度病院経営定期調査 最終報告」は、病院経営者にとって非常に重い数値を突きつけています。

医業収支(本業の診療収益から診療費用を差し引いた収支)が赤字の病院は74.6%。つまり4病院に3病院が、診療そのものでは赤字を出しているという現実です。さらに経常収支(補助金・寄付金・受取利息なども含む総合的な収支)でも**赤字法人は65.6%**に上ります。

この数値を初めて目にする経営者の多くは「本当にそこまで悪いのか」と疑問を持ちます。しかし四病協の調査は毎年実施されており、経年で比較しても悪化傾向が続いていることが確認されています。コロナ禍の特例補助が終了し、エネルギー費・物価の高騰、診療報酬の伸び悩みが重なった2024年度は、多くの病院にとって「補助金なしでは立ち行かない構造」が露わになった年でした。

重要なのは、赤字=即廃業ではないという点です。病院の多くは内部留保や借入で赤字を補填しながら運営を続けています。しかし内部留保が尽き、金融機関が融資をためらい始めた段階で、初めて「危機」として表面化します。赤字率74.6%という数値は、その予備軍がいかに多いかを示しています。

医業赤字の主な要因としては次の3点が挙げられます。第一に人件費の高騰。病院コストの5〜6割を占める人件費は、賃上げの社会的圧力と医療従事者の採用難が重なり上昇し続けています。第二に物価上昇。医薬品・医療材料・エネルギーコストの上昇は診療収益の伸びを上回っています。第三に患者数の伸び悩み。少子化と外来受診の抑制傾向により、単純に患者数を増やして収益を改善することが難しくなっています。

経営改善の第一歩は、自院の医業収支比率(医業収益÷医業費用)を算出し、この全国水準と照らし合わせることです。全体の74.6%が赤字という事実は、「赤字だから経営が特別に悪い」のではなく、産業全体が構造的課題を抱えていることを意味します。だからこそ個々の病院が独自の改善策を持つことが求められます。


2. 帝国データバンク調査:倒産・休廃業が2年連続過去最多

医療機関の倒産・休廃業件数の推移イメージ

帝国データバンクが2025年1月に公表した「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2025年)」では、さらに深刻な実態が明らかになっています。

2025年の医療機関の倒産件数は66件、休廃業・解散は823件に上り、いずれも2年連続で過去最多を更新しました。倒産(負債が返済できずに法的処理に至ること)は氷山の一角に過ぎず、その水面下には自主的に経営を畳んだ800件超の医療機関が存在しています。

同社の「全国病院経営動向調査(2024年度)」では、民間病院約900法人を対象とした調査で営業赤字の割合は61.0%(前年度54.8%)と、1年で約6ポイント悪化したことも確認されています。赤字の拡大速度が加速しているという点は、特に注意が必要です。

休廃業・解散が急増している背景には、後継者問題が深く関係しています。同調査によれば、診療所経営者の56.7%が70歳以上であり、医療業の後継者不在率は6割を超えています。高齢の院長が診療を続けながら「いつか誰かに引き継ぎたい」と思いつつも具体的な準備ができないまま時間が経過し、最終的に廃業を選ぶケースが後を絶ちません。

病院の場合は診療所と比べて規模が大きく、廃業のハードルも高い一方で、M&A(合併・買収)や事業承継による解決策が増えています。実際、病院のM&A市場は近年活況を呈しており、「良い経営者に引き継いで地域医療を守る」という発想が広まりつつあります。しかし、赤字が深刻化してからの交渉では買い手がつきにくく、財務状況が比較的健全なうちに動き出すことが重要です。

また倒産66件という数値は、表面的には「少ない」と感じるかもしれません。しかし通常の産業では倒産が増えると市場の新陳代謝が進むのに対し、病院は地域医療の担い手という性格上、倒産・廃業は即座に地域住民の医療アクセスに影響します。一つひとつの廃業が持つ社会的重みは、数値以上に大きいと言えます。


3. 厚労省病院報告:病床利用率73.3%が意味するもの

病床利用率と損益分岐点の比較図

厚生労働省が公表した「令和6(2024)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」では、全国の病床利用率の実態が示されています。**全病床の平均利用率は77.0%、一般病床に限ると73.3%**です。

病床利用率とは「入院できる病床のうち、実際に患者が入っている割合」を指します。たとえば100床の病院で毎日平均73.3人が入院していれば、利用率は73.3%です。

なぜこの数値が重要かというと、病院経営の損益分岐点は一般に一般病床で80%前後とされているためです。つまり全国平均73.3%は、損益分岐点を約6.7ポイント下回っている状態にあります。一般に、200床規模・入院単価5万円の病院で利用率が1ポイント変動すると、年間約3,650万円の増減収に相当します。6.7ポイントの乖離は2億円超の収益差につながる計算です。

ただし損益分岐点は病院の規模・病床種別・診療機能・固定費の水準によって大きく異なります。「73.3%だから赤字」「80%以上なら黒字」という単純な図式が成り立たない病院も多くあります。重要なのは、自院固有の損益分岐点を計算し、現在の利用率との差を把握することです。

病床利用率が低下する要因は多岐にわたります。急性期病院であれば平均在院日数の短縮(患者の回転が速い分、ベッドが空く時間が生じる)、地域の人口動態(患者の絶対数が減る)、他院との競合(患者が流出する)などが挙げられます。これらの要因を特定せずに「利用率を上げろ」という号令をかけても、改善にはつながりません。まずデータで原因を特定し、それに応じた対策を講じることが求められます。

また、2025年以降の病床再編の流れも見逃せません。医療機能報告制度や地域医療構想の枠組みの中で、将来的に急性期病床の削減が進む地域があります。地域全体の病床が適正化される中で自院の利用率をどう維持・向上させるか、地域の医療ニーズを踏まえた戦略が必要です。


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4. 令和8年度診療報酬改定が経営データに与える影響

令和8年度診療報酬改定 入院料の主な変更点一覧

令和8(2026)年度診療報酬改定は、2026年6月1日に施行されました。今回の改定は**本体改定率+3.09%**と、約30年ぶりに3%を超える引き上げとなった点が大きな特徴です。内訳は賃上げ対応+1.70%・物価対応+1.29%・政策改定+0.25%・適正化▲0.15%で構成されています。

入院料については以下の通り主要な点数が引き上げられました(いずれも2026年6月1日施行)。

入院料の種別 改定前(点) 改定後(点) 増減
急性期一般入院料1 1,688点 1,874点 +186点
地域一般入院料1 1,176点 1,290点 +114点
療養病棟入院料1 1,964点 2,035点 +71点

さらに今改定では物価対応料が新設されました。急性期一般入院料1では58点/日などの加算が算定候補として設定されています(ただし算定には施設基準の確認が必要です)。また、入院ベースアップ評価料は最大250点へ拡充され、職員の賃上げ原資として活用できる制度が整備されました。

これらの数値は「改定があった」という事実を示しますが、経営上の実益はあくまで実際に算定できているかどうかで決まります。改定のたびに必ず確認すべき点は次の通りです。

第一に、新設・拡充された加算の算定要件を満たしているか。物価対応料やベースアップ評価料は施設基準を届け出なければ算定できません。人員配置・設備・記録体制が要件を満たしているかを今すぐ確認することを推奨します。

第二に、改定後の入院単価・外来単価を実績と照合する。理論上は点数が上がっても、算定漏れやコーディングの問題で実収入に反映されていないケースがあります。定期的に診療科別・病棟別の単価を追跡することが重要です。

第三に、人件費増を収益増が上回っているかを検証する。賃上げ対応分の改定は、職員の給与引き上げを前提とした加算設計になっています。賃上げせずに点数だけ受け取るのは要件上も難しく、賃上げを実施した上で収支がどう変わるかを試算する必要があります。

令和8年度改定は確かに病院収益にとってプラス材料ですが、コスト上昇(特に人件費・物価)がそれ以上に速いペースで進んでいるため、改定単体で赤字構造が解消されるとは考えにくい状況です。経営改善の一手として改定効果を最大化しつつ、同時にコスト管理と患者数確保の施策を並行して進めることが求められます。


5. WAM・WAM短観から読む病院の資金繰り動向

主要調査の比較マトリクス(四病協・帝国DB・厚労省・WAM)

福祉医療機構(WAM)が定期的に公表している「病院経営動向調査(WAM短観)」は、WAMの融資先である医療・福祉法人の経営実態を四半期ごとに把握できる調査です。四病協や帝国データバンクの年次調査では読み取りにくい**「今この瞬間の業界の空気感」**を知るうえで非常に有用なデータです。

WAM短観では収益動向・費用動向・資金繰りDI(Diffusion Index: 「良い」と答えた割合から「悪い」と答えた割合を引いた指数)などが報告されます。病院の資金繰りDIがマイナス圏にある時期は、業界全体として現金の余裕が失われつつあることを示します。

直近のWAM短観が示す傾向として、一般的に次のような構造が報告されています。収益は診療報酬改定により一時的に改善するものの、費用(特に人件費・光熱水費)の増加が収益増を吸収し、利益率が圧縮される傾向が続いています。資金繰りについても「やや悪化」と答える法人が増加傾向にあり、現金月商倍率(現預金残高÷月商)が低下している法人が少なくありません。

WAM短観を経営に活かすポイントは2点です。

一つ目は**「業界全体が今どの段階にあるか」を把握すること**です。資金繰りDIが急低下しているタイミングは、金融機関の審査が厳格化するサインでもあります。そうした時期に融資申請を急がなくて済むよう、キャッシュポジションを早めに改善しておくという先手の対応が可能になります。

二つ目は自院の数値との比較基準として使うことです。たとえば「業界の平均的な費用増加率が8%のところ、自院は5%に抑えられている」という形で使えれば、コスト管理の取り組みが相対的に評価できます。逆に業界平均を上回るペースで費用が膨らんでいる場合は、特定のコスト項目の見直しを急ぐシグナルとなります。

また、WAMに借入がある法人にとっては、WAM短観の傾向を踏まえた資金計画の提出がより重要になります。短観で業界の資金繰りが悪化傾向にある中で自院の返済計画を提出する際には、数値の根拠をより丁寧に説明することが求められます。金融機関との関係は日頃の情報共有が重要です。


6. データを経営改善に使う — 自院の立ち位置の確認方法

自院の立ち位置確認のための5指標チェックリスト

ここまで4つの調査主体のデータを見てきました。最後のセクションでは、これらのデータを自院の経営改善に結びつける具体的な方法を解説します。

まず重要な前提として、全国データはあくまで「物差し」であって「処方箋」ではありません。全国平均と自院の数値を比較することで「どこが問題か」の仮説を立てることができますが、改善策は自院の診療機能・立地・患者構成・組織力に合わせた設計が必要です。

ステップ1:自院の主要5指標を算出する

以下の5指標を最初に計算してください。いずれも決算書・病院報告データから算出可能です。

  1. 医業収支比率(医業収益÷医業費用):全国水準は74.6%が赤字という事実と照らし合わせる
  2. 病床利用率(延べ入院患者数÷許可病床数×365):全国平均(一般73.3%・全病床77.0%)と比較する
  3. 人件費率(人件費÷医業収益):病院コストの5〜6割が人件費。55%超は要注意水準とされる
  4. 入院単価・外来単価:令和8年度改定後の算定実態を確認する
  5. 現金月商倍率(現預金残高÷月商):3ヶ月分未満は資金繰りの緊急確認が必要なサインとされる

ステップ2:問題の優先順位をつける

5指標のうち、全国平均から最も乖離している項目が「最優先で取り組むべき問題」の候補です。たとえば病床利用率が65%を下回っている場合、その原因(地域人口減少・競合・紹介患者減・在院日数の問題)を掘り下げる必要があります。

ここで注意が必要なのは、複数の指標が連動しているという点です。人件費率が高い→収支悪化→設備投資が滞る→サービス質が下がる→患者が離れる→利用率が落ちる、という悪循環は珍しくありません。単一指標だけを見て判断するのではなく、指標間の関係性を把握することが重要です。

ステップ3:改善施策を「収益改善」「費用適正化」「資金繰り改善」に分類する

改善施策は大きく3つに分類できます。収益改善(診療報酬の算定最適化・病床利用率の向上・患者数増・単価向上)、費用適正化(人件費・材料費・委託費の見直し)、資金繰り改善(運転資金の確保・融資条件の見直し・キャッシュフロー管理の精度向上)です。

多くの病院では、まず着手すべきは**「取れているはずの診療報酬が取れていない」という算定漏れの解消**です。令和8年度改定で新設・拡充された加算を含め、施設基準を満たしているにもかかわらず未届け・未算定のものがないか、医事課とともに総点検することを推奨します。

一般に、200床規模の病院では年間数百万〜数千万円規模の算定漏れが発見されることがあります。これはリスクゼロで実行できる収益改善策であり、まず最初に取り組む価値があります。

ステップ4:PDCAサイクルを月次で回す

データに基づく経営改善は、一度見直したら終わりではありません。月次で主要指標を確認し、診療報酬改定・地域の患者動向・スタッフの採用状況などの外部変化に応じて計画を修正し続けるPDCAサイクルが不可欠です。

データを「作って終わり」にしない仕組みを作ることが、長期的な経営改善の基盤になります。理事長・院長・事務長が月1回必ず確認する指標ダッシュボードを整備し、全員が同じ数値を見ながら議論できる体制を整えることが大切です。


まとめ

本記事では、四病協・帝国データバンク・厚労省・WAMという4つの調査主体のデータから2024〜2026年の病院経営の実態を整理しました。要点を改めてまとめます。

  • 医業赤字74.6%・経常赤字65.6%(四病協 2024年度最終報告):病院の4分の3が本業で赤字
  • 民間病院の営業赤字は61.0%(帝国DB 2024年度):前年度54.8%から約6ポイント悪化
  • 医療機関の倒産66件・休廃業823件(帝国DB 2025年):2年連続過去最多
  • 一般病床利用率73.3%(厚労省 病院報告2024):損益分岐点(約80%)を6.7ポイント下回る
  • **令和8年度改定は本体+3.09%**と約30年ぶりの3%超だが、コスト上昇も続いており構造的赤字の解消には至らない可能性が高い

これらの数値は、病院経営の苦境を示すと同時に、いかに今が「手を打つべきタイミング」であるかを教えています。全国データと自院の数値を比較し、優先課題を特定し、具体的な改善行動につなげてください。


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