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赤字病院が最初にやるべきコスト削減の優先順位 — 人件費・委託費・材料費の正しい手順

監修者 藤井翔悟

2026-10-13 | NPO法人日本はすばらしい 病院経営支援チーム
監修: 藤井翔悟(医療機関経営支援16年・累計1,000院以上)

四病協の2024年度病院経営定期調査(最終報告)によると、病院の医業赤字は74.6%・経常赤字は**65.6%**に達しています。帝国データバンクの2024年度調査でも、民間病院約900法人の61.0%が営業赤字という厳しい現実が続いています。

こうした状況のなかで「このままでは立ち行かない」と判断した理事長・院長・事務長が、まず検討するのがコスト削減です。しかし、どこから始めるかを誤ると、かえって経営が悪化するケースが少なくありません。

最も典型的な失敗は「人件費から削る」というパターンです。病院のコストの5〜6割を占める人件費は、確かに削減効果は大きい。しかし医師や看護師の離職を招けば、病床利用率が低下し、収益が一気に悪化します。200床規模の病院なら、病床利用率が1ポイント下がるだけで年間約3,650万円の収益減につながります(2床×5万円×365日の機械計算)。

本稿では、赤字病院がコスト削減に着手する際の正しい優先順位と実務手順を、費用カテゴリごとに整理します。「何を最初にやるか」「何を最後に回すか」を理解することが、持続可能な経営改善の第一歩です。

病院の費用構造を把握する — 5つのコストカテゴリ

病院の費用構造(概念図)

コスト削減を始める前に、まず自院の費用構造を正確に把握する必要があります。病院の費用は大きく以下の5カテゴリに分類されます。

カテゴリ 主な内容 費用全体に占める目安割合
人件費 医師・看護師・コメディカル・事務の給与・賞与・社会保険料 50〜60%
材料費 薬剤費・診療材料費・医療消耗品 15〜25%
委託費 給食・清掃・洗濯・医療機器保守・警備・システム保守 5〜10%
減価償却費 建物・医療機器・電子カルテ等ITシステムの償却 5〜10%
その他経費 水道光熱費・修繕費・賃借料・通信費・旅費交通費 5〜10%

この構造から見えるのは、人件費が圧倒的に大きいという事実です。しかしだからこそ、安易に人件費から手をつけるのは危険です。一方、委託費や材料費は「交渉・見直しによって改善できる余地が比較的大きく、かつ医療の質に直接影響しにくい」という特性があります。

コスト削減の基本戦略は「リスクが低く、効果が確実なカテゴリから順に着手する」ことです。具体的には「委託費 → 材料費・薬剤費 → その他経費 → 人件費」という順序が実務上、最も安全で効果的とされています。

費用構造の把握には、まず直近3か年の財務諸表(損益計算書)を科目別に並べ、各カテゴリの構成比と推移を確認することから始めます。「費用が増えているカテゴリはどこか」「全国平均と比べて高いカテゴリはどこか」という視点で分析すると、優先的に手を入れるべき箇所が見えてきます。

コスト削減優先順位マトリクス — 効果とリスクで判断する

コスト削減優先順位マトリクス

各費用カテゴリを「削減効果の大きさ」と「医療の質・人材流出リスクの高さ」という2軸で評価すると、取り組む順序が明確になります。

委託費は削減効果が中〜大きく、かつ適切に進めれば医療の質への影響が限定的です。長年の固定取引先との惰性的な契約関係が多く、競合見積もりを取るだけで条件が改善されることも珍しくありません。まず最初に着手すべきカテゴリです。

材料費・薬剤費は削減効果が大きく、医療の質への直接的リスクは比較的小さい一方で、医師・薬剤師の協力なしには進められません。現場との合意形成を経て進める、二番目のカテゴリです。

その他経費(光熱費・修繕費等)は単独の削減効果は限られますが、積み上げると無視できない規模になります。委託費・材料費と並行して見直しを進める位置づけです。

人件費は削減効果が最も大きい一方で、医師・看護師の離職を招くリスクも最大です。前述の3カテゴリで十分な改善が見られない場合に初めて検討する、最後のカテゴリとして位置づけるべきです。しかも「削減」ではなく「適正化」という視点で取り組むことが重要です。

Step 1 — 委託費の見直しを最初に行う理由

委託費見直しの実務フロー

委託費が最初に取り組むべきカテゴリとして推奨される理由は主に3つあります。

① 交渉余地が大きい

給食・清掃・洗濯・警備・医療機器保守といった委託サービスは、長年同じ委託先と契約しているケースが多く、相場から乖離した割高な契約になっていることが一般に多いとされています。競合他社から見積もりを取得するだけで、条件改善が期待できる場合があります。実際の効果は施設・委託内容により異なりますが、「相見積もりを出した途端に現行委託先が自主的に値下げ提案をしてきた」というケースは典型的に見られます。

② 医療の質への影響が限定的

委託サービスの見直しは、直接的な医療提供への影響を最小化しながら進められます。給食委託先を変更しても、患者さんの治療行為そのものには直接的な影響は生じません(ただし栄養管理の質を落とすと加算に影響することがあるため、後述の品質確認は必須です)。一方、人件費削減で医師が離職すれば、診療科閉鎖という深刻な事態につながりかねません。

③ 短期間で効果が出やすい

契約更改のタイミングで条件交渉することで、翌年度から即座に費用削減の効果が数字に反映されます。人件費適正化のように中長期的な取り組みが不要で、費用対効果が見えやすいのが特徴です。

委託費見直しの実務では、まず全委託契約のリスト化から始めます。委託先・契約金額・契約期間・更改時期・仕様内容を一覧にし、相場比較が可能な項目を特定します。次に、競合他社への見積依頼を行い、現行契約先との交渉材料とします。

ただし、給食委託・医療機器保守は品質・安全面の確認が必須です。単純に最安値を選ぶのではなく、「栄養管理の水準を満たしているか」「医療機器の保守基準を遵守できるか」「感染対策上の清掃水準を維持できるか」という品質基準を仕様書に明記し、コスト削減後も定期的な評価を続けることが重要です。

なお、委託費の見直しは一度行えば終わりではありません。一般に契約更改サイクルは2〜3年に一度のため、毎回の更改タイミングで相場確認を繰り返す継続的な管理体制を構築することが、長期的なコスト適正化につながります。

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Step 2 — 材料費・薬剤費の削減でデータ管理を確立する

材料費・薬剤費削減の4アプローチ

委託費の見直しと並行して、または次のステップとして取り組むのが材料費、特に薬剤費の削減です。薬剤費は病院によっては年間数億円規模になり、わずかな見直しでも数千万円単位の改善につながることがあります。材料費削減には、主に以下の4つのアプローチがあります。

① 後発医薬品(ジェネリック)への切り替え

後発医薬品の採用率を高めることは、最も即効性の高い薬剤費削減策の一つです。同一有効成分・同一効能で先発品より安価なため、採用率を高めることで費用を大幅に抑えられます。ただし採用可否の判断は薬剤師・医師との連携が必要であり、一律強制切り替えは医療安全上も適切ではありません。薬事委員会や採用薬剤委員会での合意形成を経た計画的な進め方が成功の鍵です。

② 共同購買・グループ購買の活用

複数の医療機関がグループで医薬品・診療材料を共同購買することで、スケールメリットによる価格交渉力が高まります。医師会系の共同購買組合や、グループ病院間での調達統一を活用することで、単独交渉では得られない条件での調達が可能になる場合があります。単独で交渉力が弱い中小病院ほど、この仕組みの活用を検討する価値があります。

③ 在庫適正化による廃棄ロスの削減

使用頻度の低い薬剤や診療材料の過剰在庫は、期限切れによる廃棄ロスとして費用化されます。月次での在庫確認と発注量の見直しにより、廃棄ロスを抑制することが可能です。特に、消費金額順に品目を分類して上位品目に注力する「ABC分析」の活用は、在庫管理の効率化に有効とされています。

④ 診療材料の標準化(スタンダード化)

同一用途の診療材料が複数ブランド・複数品番で採用されている場合、品目を絞り込むことで単価交渉力が高まります。外科手術材料・内視鏡処置材料に多くみられる「複数ベンダー・複数品番乱立」問題を解消することで、費用を抑えながら在庫管理も簡素化できます。ただし標準化には医師・看護師の合意が必須であり、現場の意見を丁寧に汲み取りながら進める必要があります。

薬剤費削減を進める際の重要な注意点は、「費用削減のため」というトップダウン指示だけでは現場の協力を得にくいことです。「安全性の維持」「患者への丁寧な説明」「医療の質の担保」という観点を共有しながら、薬剤師・医師を巻き込んだボトムアップ型のアプローチが、長続きする材料費管理の基盤となります。

Step 3 — その他経費の見直しで漏れを拾う

委託費・材料費の次に見直すのが、水道光熱費・修繕費・通信費・賃借料といったその他経費です。個々の金額は小さくても、積み上げると病院全体費用の5〜10%を占めます。

特に近年注目が高いのが**エネルギーコスト(電気・ガス)**です。帝国データバンクの2025年調査で医療機関の倒産・休廃業が2年連続で過去最多となった背景の一つに、物価高騰・光熱費の急騰があります。電力会社・プランの見直し、LED照明への切り替え、空調・給湯設備の稼働スケジュール最適化(入院患者数に合わせた運転時間管理)などが、比較的投資対効果の高い取り組みとして挙げられます。

修繕費については「予防保全 vs 事後保全」のバランスが重要です。適切な予防保全(定期点検・消耗品の計画的交換)を行うことで、予期しない大規模な事後修繕費を回避できる場合が一般に多いとされています。医療機器保守契約の内容見直しと合わせて、施設・設備の維持計画を整理することが経営的に有効です。

また、通信費については、古い契約プランや未使用の回線・サービスが放置されているケースがしばしば見られます。月次の支払い明細を一つひとつ確認し、不要なサービスを解約するだけでも一定の費用削減につながります。

Step 4 — 人件費の適正化は「最後」かつ「最小限」に

人件費「適正化」のチェックリスト

人件費は病院費用の5〜6割を占めるため、削減効果は最も大きい。しかし最後の手段として、最小限の範囲で行うというのが実務上の原則です。

「適正化」という言葉が重要です。人件費の削減ではなく、適切な人員配置と処遇の整合性を取ることが目的です。具体的に有効とされるアプローチを以下に整理します。

超過勤務(残業)の削減

残業代の削減は、既存スタッフの雇用を守りながら人件費を抑制できる方法の一つです。業務フローの見直し、医師のタスクシフト(診療補助業務を看護師・コメディカルへ適切に移管)、医療事務の電子化・効率化によって、残業時間そのものを減らすアプローチが有効とされています。なお、令和6年4月から適用された医師の時間外労働上限規制も、病院が組織的に残業削減に取り組む契機となっています。

欠員補充の精査

退職者が出たタイミングで、同ポジションの即時補充が本当に必要かどうかを検討します。業務量が減少している診療科での自動補充は、人件費増加につながります。「欠員が出たから補充する」ではなく、「その診療科・業務に人員が本当に必要か」を定期的に確認する仕組みが重要です。

雇用形態の最適化

正規雇用・パート・派遣のバランスは、施設の規模・診療科・繁閑に応じた最適化が可能です。ただし、派遣医師・派遣看護師に過度に依存すると固定費が高止まりするリスクもあり、中長期的には直接雇用・育成の仕組みを整えることが経営上は有利とされています。

賃上げ対応との両立

令和8年度診療報酬改定では、賃上げに対応するための「入院ベースアップ評価料」が最大250点に拡充されました(施行:2026年6月1日)。また、看護・多職種協働加算(加算1:277点、加算2:255点)も新設されています。こうした改定で手当てされた財源を最大限に活用することで、職員の処遇改善と経営改善を同時に実現できます。人件費を「削る」方向だけでなく、「改定財源で手当てする」方向も合わせて検討することが、人材確保と経営改善を両立させる近道です。

整理解雇は最終手段

上記をすべて試みても改善が不十分な場合に限り、人員削減を検討します。整理解雇を実施する際は、労働法上の「整理解雇の4要件」(経営上の必要性・解雇回避努力の実施・人選基準の合理性・労使間の誠実な協議)を満たす必要があり、法的リスクを十分に理解したうえで、弁護士・社会保険労務士と連携しながら進めることが必要です。

コスト削減後に陥りがちな罠 — 収益と質を守る視点

コスト削減が逆効果になるパターン

コスト削減に取り組む際に見落とされがちな視点が、「削減そのもの」を目的化してしまうことです。病院経営において、コスト削減は「医療の質を維持しながら費用を合理化する」ことが目的であり、医療の質・患者満足度を毀損すれば本末転倒です。特に注意すべき落とし穴を3点挙げます。

落とし穴① 委託費削減による品質低下

給食の質が低下すれば、栄養管理に関わる加算の算定に影響する場合があります。清掃委託の品質低下は院内感染リスクに直結し得ます。委託費を削る際は、最低品質基準の確保を仕様書に明記し、削減後も定期的な評価・モニタリングを継続することが不可欠です。「安くなった代わりに患者からのクレームが増えた」では本末転倒です。

落とし穴② 人件費削減による医師・看護師の離職

前述の通り、200床・入院単価5万円の病院では病床利用率が1ポイント低下するだけで年間約3,650万円の収益減となります(厚労省病院報告2024の全国平均データを基にした機械計算)。数百万円の人件費削減が数千万円の収益減を招くという逆転現象は、経営改善の現場でしばしば報告されています。人件費の削減は「最後の手段」であり、実施する場合も処遇水準の大幅引き下げではなく、残業削減・採用精査・加算財源の活用といった手法に絞るのが賢明です。

落とし穴③ 材料費削減による現場の抵抗とモチベーション低下

後発医薬品への切り替えや診療材料の標準化を、「経営からの指令」として一方的に押し付けると、現場の医師・看護師の反発やモチベーション低下を招くリスクがあります。「安全性への配慮」「患者への説明の仕方」「切り替え後のモニタリング体制」を含めた計画を現場と共同で策定し、「一緒に取り組む」スタンスを維持することが、持続的なコスト管理の文化づくりにつながります。

コスト削減は、収益改善・稼働率向上・加算取得といった「攻め」の施策と同時並行で進めることが理想です。特に、令和8年度改定で新設・拡充された多くの加算の算定漏れをなくすことは、費用を削減せずに利益を増やせる即効策として有効です。「守りのコスト削減」と「攻めの収益改善」の両輪を同時に回すことが、持続可能な経営改善の王道といえます。

まとめ

赤字病院がコスト削減に取り組む際の基本原則は「委託費 → 材料費・薬剤費 → その他経費 → 人件費」という優先順位です。効果が大きく見える人件費から手をつけたくなる心理は理解できますが、医療人材の離職が連鎖すれば、取り返しのつかない収益悪化につながります。

四病協の2024年度調査では医業赤字が74.6%に達し、帝国データバンクでは医療機関の倒産・休廃業解散が2年連続で過去最多を記録しました。こうした厳しい経営環境のなかで生き残るには、コスト削減だけに注力するのではなく、令和8年度改定(本体+3.09%・施行2026年6月)の新設・拡充加算の適正算定や外来・入院の稼働率改善といった「収益サイドの改善」を並行して進めることが不可欠です。

コストを削りながら質を守り、収益を上げながら人材を育てる——その両立を実現することが、持続可能な病院経営への道です。

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