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令和6年度 公立病院経営調査の要点 — 全国ベンチマークで自院の課題を見つける

監修者 藤井翔悟

2026-10-06 | NPO法人日本はすばらしい 病院経営支援チーム
監修: 藤井翔悟(医療機関経営支援16年・累計1,000院以上)

「公立病院は赤字でも仕方がない」——そう思われがちですが、経営の厳しさを放置すると、いずれ地域住民医療の維持が困難になります。帝国データバンクの2025年調査によると、医療機関の倒産は66件、休廃業解散は823件で2年連続過去最多を記録しました。公立病院も例外ではなく、四病院団体協議会の2024年度病院経営定期調査(最終報告)では、調査対象病院の**医業赤字は74.6%、経常赤字は65.6%**にのぼっています。

こうした状況の中で、自院の経営状態が「全国と比べてどうなのか」を客観的に把握することが、経営改善の第一歩です。その羅針盤となるのが、全国公立病院協会が毎年実施する「公立病院の経営に関する調査」(以下、経営調査)です。最新版は令和6年度版(令和7年4月公表)で、全国の公立病院の収支・病床利用率・人件費率などを集計した一次資料として活用できます。

本記事では、この調査の概要と主要指標の読み方を解説し、自院の経営課題を浮き彫りにするベンチマーク活用5ステップを実務的に紹介します。

令和6年度 公立病院経営調査とは — 何が分かる調査か

令和6年度 公立病院の経営に関する調査は、全国公立病院協会(全公病)が都道府県立・市町村立・一部事務組合立などの公立病院を対象に行う年次調査です。収支状況・病床利用率・入院収益・人件費率・給与費比率などを病院規模別・種別に集計し、業種内ベンチマークとして機能します。

公立病院が経営改革プラン(2024年以降は「経営強化プラン」)を策定する際、同規模・同機能の病院との比較は不可欠です。この調査はその根拠資料として、総務省・厚生労働省の指導の下でも参照されています。

調査の主な指標は次のとおりです。

指標カテゴリ 主な指標項目
収支 医業収益、医業費用、経常損益、医業収支比率
稼働 病床利用率、平均在院日数、新入院患者数
コスト 給与費比率(人件費率)、材料費比率、委託費比率
効率 1床当たり医業収益、職員1人当たり医業収益

これらの指標を自院の数値と照合することで、「どの指標が悪いのか」「同規模病院と比べて何が課題か」を特定できます。

令和6年度 公立病院経営調査の概要と主要指標カテゴリ

重要な点として、この調査は公立病院に特化しています。民間病院との直接比較には使えませんが、公立病院同士の相対評価には非常に有効です。なお、民間病院のデータは四病協調査・帝国データバンク調査・WAM(福祉医療機構)の病院経営動向調査などを参照することで、業種全体の位置づけを把握できます。

また、この調査は無料で公表されており、全国公立病院協会のウェブサイトから入手できます。経営企画担当者であれば、毎年の公表後すぐに確認する習慣をつけることを推奨します。規模別・機能別の詳細集計を通じて、「うちの規模ではこの指標が標準的な水準か」を判断する基準として機能します。

数字で見る公立病院の収支実態 — 赤字の深刻さ

四病院団体協議会の2024年度病院経営定期調査(最終報告)によると、調査対象病院の医業赤字は74.6%、経常赤字は65.6%にのぼります。民間病院でも帝国データバンクの2024年度調査では民間病院約900法人の営業赤字は61.0%(前年度54.8%から悪化)で、公立・民間を問わず赤字が常態化しています。

公立病院の赤字が特に深刻な背景には、次の構造的要因があります。

①使命と採算の乖離: 公立病院は不採算医療(救急・小児・周産期・精神・感染症など)を担う使命を持つため、民間が撤退した診療領域を維持することが多く、採算の取れにくい患者層・疾患に対応し続けなければなりません。

②固定費の重さ: 公立病院は地方公務員に準じた処遇体系を持つことが多く、人件費が硬直しやすい傾向にあります。病院のコストの5〜6割は人件費であり、人員を柔軟に削減できないことが赤字を固定化させます。

③診療報酬改定の影響: 令和8年度改定では本体+3.09%(約30年ぶりの3%超)が実現しましたが、賃上げ対応分+1.70%・物価対応+1.29%が大半を占め、純粋な収益改善への寄与は限定的です。加えて、施行は2026年6月1日であり、令和6年度の収支改善にはほぼ寄与しませんでした。

公立病院・民間病院の赤字比率の比較と赤字の構造要因

ただし、同じ公立病院でも黒字経営を維持している施設はあります。経営調査では病院規模別・種別の集計が行われており、自院と同規模・同機能の病院が全国的にどういう収支を示しているかを確認することが第一歩です。規模だけでなく、病床機能(一般急性期か回復期か療養か)によっても収益構造は大きく異なるため、適切な比較グループを選ぶことが重要です。

赤字であることを「仕方ない」と受け入れるのではなく、「全国比でどこに問題があるのか」を特定する視点が、経営改善の出発点になります。

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病床利用率のベンチマーク — 損益分岐点との関係

病床利用率は、病院の収益を左右する最重要指標のひとつです。厚生労働省「令和6(2024)年 医療施設(動態)調査・病院報告」によると、全国平均は**全病床77.0%、一般病床73.3%**です。

入院医療の損益分岐点は一般に80%前後とされており、全国平均は損益分岐点を下回っています。これが多くの病院で入院赤字が生じる根本的な理由のひとつです。

病床利用率が経営に与えるインパクトを具体的に示すと、病院200床・入院単価5万円の場合、利用率が1ポイント変動すると年間約3,650万円の増減となります(2床×5万円×365日の単純計算)。利用率73%から80%へ改善できれば、計算上は約2.5億円以上の増収効果が期待できます(ただし費用増加分を考慮した純増益は別途検討が必要です)。

病床利用率の全国平均と損益分岐点の関係および改善効果試算

公立病院経営調査では、病院規模別・地域別の病床利用率データが整理されています。自院の利用率が同規模病院と比べてどういう水準かを確認することが重要です。

利用率が低い原因を特定する視点は以下のとおりです。

  • 入院患者数の絶対量: 紹介患者数・救急搬入数の増減を経年でチェックする
  • 平均在院日数: 短縮が進みすぎると分子(延べ患者数)が減少し利用率が下がる
  • 病床種別の需給ミスマッチ: 高度急性期の空床が続く一方で回復期の待機が増えていないか
  • 季節変動: 夏・年末年始の稼働低下を平均が隠していないか
  • 紹介・逆紹介ネットワーク: 地域のかかりつけ医との連携が機能しているか

これらを経営調査の全国比較データと照らし合わせることで、「偶発的な要因か」「構造的な問題か」の判断が可能になります。利用率改善は最も収益インパクトが大きい改善手段のひとつであり、優先的に分析すべき指標です。

人件費率・コスト構造のベンチマーク

病院の費用構造の中で、人件費は全体の5〜6割を占めます。この比率は病院種別・規模によって差がありますが、一般に給与費比率(人件費÷医業収益)が55〜60%を超える場合は収益圧迫のリスクが高まります。

令和8年度診療報酬改定では、入院ベースアップ評価料が最大250点へ拡充され、看護・多職種協働加算の新設(加算1:277点/加算2:255点)によって処遇改善財源が手厚くなりました。一方で、この評価料は「処遇改善に充てること」が算定条件であり、純粋な利益にはなりません。賃上げを実施しなければ算定できず、賃上げ後の費用増を評価料でカバーするという仕組みです。

公立病院特有のコスト課題として以下が挙げられます。

コスト区分 課題と改善の方向性
給与費 地公準拠の処遇が硬直的。病床種別転換や業務委託で最適化を検討
材料費(診療材料・薬品) 共同購買・採用規格の統一で単価削減が可能な場合がある
委託費 給食・清掃・医事等の委託先の見直し・競争入札による最適化
設備更新費 老朽化施設・機器の更新が遅れるほど将来負担が増大する

病院の費用構造の典型例と公立病院特有のコスト課題

経営調査の給与費比率・材料費比率・委託費比率の全国平均と自院を比較することで、どのコスト区分でロスが大きいかを特定できます。たとえば給与費比率が全国平均より5ポイント高ければ、優先的に人員配置の最適化(病床種別転換・夜間看護配置の見直し等)を検討すべきシグナルです。

なお、コスト削減策を実施する際は、診療報酬上の施設基準(例:急性期一般入院料1の「7対1看護」要件)を維持できるかを必ず確認してください。施設基準を満たせなくなると入院料が下がり、削減した人件費以上の減収が生じる可能性があります。令和8年度改定では急性期一般入院料1の基本点数が1,688点から1,874点に引き上げられており、施設基準の維持は以前にも増して重要になっています。

自院の経営課題を見つける — ベンチマーク活用5ステップ

経営調査のデータを「眺めるだけ」では意味がありません。以下の5ステップで、自院の改善ポイントを抽出してください。

ステップ1: 自院の直近3か年のデータを整理する

医業収支比率・病床利用率・給与費比率・平均在院日数を年度ごとに一覧にします。「悪化傾向か」「改善傾向か」というトレンドを把握することが先決です。単年度データだけでは一時的な変動と構造的な問題の区別がつきません。

ステップ2: 調査の「類似病院グループ」を選択する

経営調査は病院規模別(100床未満/100〜199床/200〜299床 など)や機能別(一般病院/療養型/精神科など)に分けて集計されています。自院と最も近いグループを選んで比較します。比較グループの選び方によって結論が変わるため、複数のグループで比べてみることも有効です。

ステップ3: 各指標の乖離幅を定量化する

全国平均との差をポイントで算出します。「病床利用率▲5ポイント」「給与費比率+8ポイント」など、問題の大きさが数字で見えるようにします。乖離幅が大きい指標ほど改善インパクトも大きいと考えられますが、収益への影響額も合わせて試算することが重要です。

ステップ4: 優先課題を2〜3項目に絞り込む

全指標を同時に改善しようとすると組織が疲弊します。インパクト(収益への影響額)と着手難易度(実行可能性・期間・必要投資)でマトリクスを作り、優先課題を絞ります。一般に「影響額が大きくかつ実行可能性が高い課題」から着手するのが効果的です。

ステップ5: 改善計画に落とし込む

病院経営強化プランや中期経営計画に、ベンチマーク比較から導いた改善目標(例:3年後に病床利用率を+5ポイント改善、給与費比率を▲3ポイント改善 など)を明記します。数値目標があることで、進捗管理とPDCAサイクルが機能します。

ベンチマーク活用5ステップのチェックリスト

このステップを定期的に繰り返すことで、改善状況を継続的にモニタリングできます。最低でも**年1回(決算確定後)**はベンチマーク比較を実施することを推奨します。

なお、専門家(医療経営コンサルタント・公認会計士・社会保険労務士)に依頼する際も、このベンチマーク分析を事前に準備しておくことで、課題の共通理解が早まり、コンサルティング費用の効率化にもつながります。自院の「どこが問題か」を言語化できている状態で外部専門家と協議するほうが、有益なアドバイスを引き出せます。

数字が示す経営改革の方向性 — 黒字転換のシナリオ

ベンチマーク分析の結果、「単独での経営改善が困難」と判断された場合、公立病院には複数の選択肢があります。

選択肢①: 病院機能の見直し(機能転換)

急性期病床の過剰を抱えている場合は、回復期・地域包括ケア病床への転換が有効な場合があります。地域包括ケア病床(16対1看護)への転換は、人件費率を下げながら地域連携機能を強化するケースが見られます(施設の状況により異なります)。需要分析と施設基準の要件確認が必要です。

選択肢②: 指定管理者制度の導入

民間病院グループや医療法人に運営を委託することで、人件費の柔軟化・経営ノウハウの導入が期待できます。ただし、議会・住民への丁寧な説明と雇用保全の調整が不可欠です。導入前に業務委託範囲と評価指標(KPI)を明確に設定しておくことが成功の鍵となります。

選択肢③: 統合・合併・再編

近隣の公立病院や民間病院との統合・機能分担により、規模の経済とコスト削減を追求します。地域医療構想調整会議での合意形成が必要であり、行政・住民を含む幅広い関係者との協議が前提となります。統合後のPMI(経営統合後の融合プロセス)も重要課題です。

選択肢④: 民間移譲

売却または長期賃貸により民間法人への移譲を行います。一部の大規模改善に民間のダイナミズムを活用するケースが増えており、地域住民の医療アクセスを維持しながらコスト構造を改善できる可能性があります。

選択肢⑤: 経営改善推進事業債(経改債)の活用

上記改革を資金面で支援する経営改善推進事業債(地方債の一種)を活用することで、改革に必要な投資コストを平準化できます。改革の規模と財政状況に応じて、総務省の関連通知を確認しながら検討することが重要です。

公立病院の経営改革選択肢マトリクス(独立改善〜民間移譲まで)

いずれの選択肢も、まず「全国との比較で自院はどこに位置するか」を正確に把握することが前提です。令和6年度経営調査のデータは、その判断材料の中核となります。経営改革の方向性を決める前に、まずベンチマーク比較で自院の強みと弱みを客観的に整理することが、議会や住民への説明にも説得力をもたらします。

まとめ — 数字を羅針盤にして次の一手を決める

「病院経営は感覚ではなく、数字で語る時代」に入っています。令和6年度 公立病院経営調査は、全国の公立病院が共通のフォーマットで集計したデータを無料で公開する貴重な一次資料です。

自院の経営課題を浮き彫りにするには、①直近3か年の自院データを整理し、②同規模・同機能グループの全国平均と比較し、③乖離幅の大きい指標から優先課題を特定する——この3ステップが第一歩です。

病床利用率・給与費比率・医業収支比率を中心に、最低年1回のベンチマーク比較を習慣化してください。ベンチマークは「自院の問題を責めるデータ」ではなく、「次の一手を探す羅針盤」として活用するものです。

医業赤字74.6%という厳しい現実の中でも、同規模の病院と比較して相対的に優位な指標があれば、それは強みとして伸ばすべき点です。逆に、全国平均を大きく下回る指標があれば、そこに経営改善の余地があります。データに基づいた冷静な現状分析こそが、赤字脱却の土台となります。

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