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再生・経営改善

病院の保険外収益を増やす — 選定療養・先進医療・予防外来の活用実務

監修者 藤井翔悟

2026-10-27 | NPO法人日本はすばらしい 病院経営支援チーム
監修: 藤井翔悟(医療機関経営支援16年・累計1,000院以上)

診療報酬という「決められた単価の中で戦う」だけでは、赤字構造から抜け出しにくい時代になってきました。医業赤字74.6%という現実を前に、「保険外で収益を作る」という発想への転換が、経営改善の新たな選択肢として注目されています。

なぜ今、保険外収益の強化が求められるか

四病院団体協議会の2024年度病院経営定期調査(最終報告)によると、病院全体の医業赤字は74.6%、経常赤字も65.6%に達しています。これは「病院の4軒に3軒が医療行為そのものでは赤字」を意味します。帝国データバンクの2024年度調査でも、民間病院約900法人の61.0%が営業赤字と報告されており、前年度(54.8%)からさらに悪化しています。

こうした構造的赤字の背景には、診療報酬の抑制と人件費・物価上昇というコスト圧力が同時に働いていることがあります。令和8年度診療報酬改定(施行:2026年6月1日)では本体改定率プラス3.09%と約30年ぶりの3%超引き上げが実現しましたが、病院の収支が抜本的に改善するまでには時間がかかります。病院のコストの5〜6割は人件費であり、ベースアップ評価料の拡充があっても、人件費上昇分を診療報酬で完全に吸収するのは難しい局面が続きます。

このような状況のなかで、保険外収益(保険診療に依存しない収益)の強化が経営改善策の一つとして浮上しています。患者が自由意思で選択する付加価値サービス(選定療養・先進医療・予防医療)を病院収益の柱に加えることで、診療報酬改定の影響を受けにくい安定した収益構造を目指すことが可能になります。

病院収益の構造:保険収益と保険外収益の関係

保険外収益の種類と法的な位置づけを整理する

「保険外収益」という言葉には、医療法・健康保険法の観点からいくつかの異なる仕組みが含まれています。主要なものを整理すると、大きく3つのカテゴリに分けられます。

① 選定療養(保険外併用療養費制度)

健康保険法第86条に規定される「保険外併用療養費制度」の一区分で、患者が任意に選択するサービス部分についてのみ全額自己負担が発生する仕組みです。代表例は以下のとおりです。

選定療養の種類 患者が選ぶ内容
特別療養環境室の提供 個室・少人数室への入室(差額ベッド料)
予約診療 希望する日時での予約診療
時間外診療 診療時間外・休日の受診(緊急でない場合)
歯科材料の差額 保険適用外の素材(金属床義歯など)
制限回数超の医療行為 保険上限回数を超える治療(リハビリ等)
180日超の入院 特定の長期入院における食事等の一部

保険診療の部分(検査・投薬・手術など)は引き続き保険給付の対象となり、「選択した上乗せ部分」だけを患者が全額負担します。混合診療禁止の例外として法的に認められている制度であるため、適切な手続きを踏めば病院にとってリスクが低い収益源です。

② 先進医療

厚生労働大臣が承認した一定の先端医療技術について、技術料は患者全額負担(自費)、基本的な診療(検査・投薬等)は通常の保険診療として扱われる仕組みです。厚労省の「先進医療会議」で認定を受けた施設のみが実施できます。施設基準と件数の管理が求められますが、専門性の高いブランドを確立できる効果も期待できます。

③ 自由診療(完全自費)

健康保険を使わない診療全般で、美容医療・抗加齢(アンチエイジング)外来・スポーツ医学・渡航前ワクチン接種・一部の予防接種などが代表例です。保険診療と「同一の診療行為」として混同されると混合診療禁止の観点から問題となるため、サービスの分類と区分管理が必須です。医療広告ガイドラインへの準拠も確認が必要です。

なお、人間ドック・健診センターの収益は保険外の医業収益に位置づけられ、多くの病院で安定した収益源となっています(本稿では別記事として関連記事に掲載)。

保険外収益の強化を検討する際は、まず自院の現状把握から始めることが重要です。現在の保険外収益の種別・金額・件数を整理し、「どの区分がまだ活用できていないか」を洗い出すことが第一歩となります。特に選定療養(差額ベッド料)は多くの病院がすでに設定しているものの、同意書の取得フローが整備されていなかったり、稼働率のモニタリングが行われていなかったりするケースが少なくありません。現状の管理水準を確認したうえで、改善の優先度を決めることが、保険外収益強化の出発点です。

保険外収益の3分類:選定療養・先進医療・自由診療の違い

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選定療養(差額ベッド料)の適正設定と運用

選定療養のなかでも経営に大きく影響するのが、**差額ベッド料(特別療養環境室の提供)**です。全室個室化や半個室化が進む病院が増えているなかで、差額ベッド料の適正な設定と運用は重要な収益管理項目となっています。

差額ベッド料を請求できる3つの要件

厚生労働省の通知によると、特別療養環境室として差額ベッド料を請求できるのは、以下をすべて満たす場合に限られます。

  1. 1人当たり床面積が6.4㎡以上であること
  2. 室内にプライバシーを確保できる設備(カーテンなど)があること
  3. 患者への十分な説明と書面による同意の取得が完了していること

特に重要なのが「患者の同意なしに特別療養環境室に入室させた場合は差額ベッド料を請求できない」という点です。以下のケースでは、個室であっても差額を請求できません。

  • 院内感染防止の観点から病院の都合で個室に入れた場合(空床の都合、重篤患者の隔離など)
  • 患者が同意を拒否した場合に強制的に個室に移した場合
  • 認知症や意識障害のある患者から適切な同意が取れていない場合

こうした請求ミスは、後に患者・家族からのクレームや行政指導の原因になります。事務部門と病棟師長が連携し、同意書取得の標準フローをシステム(電子カルテ等)に組み込むことが有効です。

差額ベッド料の水準設定と競合比較

差額ベッド料は各病院が自由に設定できます。地域相場や自院のサービス品質(Wi-Fi環境・食事サービス・バス・トイレ等)との整合性を評価し、定期的に見直すことが必要です。差額ベッド料が過大であれば患者の選択率が下がり、逆に安価すぎると収益機会を逃します。近隣病院の設定額をリサーチしたうえで、自院の強みを組み込んだポジショニングを検討しましょう。

差額ベッド比率(全病床に占める特別療養環境室の割合)と稼働率を月次で掛け合わせた差額ベッド収益管理表を作成し、経営会議の定例指標に組み込むことで改善の余地を定量的に把握できます。

個室整備投資の費用対効果を考える

一般に、個室や少人数室へのリノベーション投資は、差額ベッド料収入の増加という形で回収することが可能です。ただし、地域の患者層・競合病院の差額ベッド料設定・入院患者の平均年齢・保険外収入への意識などを踏まえて投資判断を行う必要があります。単純に個室比率を高めればよいわけではなく、需要が見込める診療科(産科・整形外科・泌尿器科など)への重点配置が収益貢献度を高めるポイントです。投資回収期間の試算と稼働率の現実的な見込みを立ててから整備計画を進めることが求められます。

差額ベッド料の請求フローと注意点

先進医療の提供体制:申請から患者説明まで

先進医療は、保険収載(全額保険適用)が決まっていない高度医療技術のうち、厚生労働大臣が認定したものです。技術料のみ患者が全額負担し、前後の検査・投薬などの基本診療は保険でカバーされます。提供できるのは厚労省から施設基準の承認を受けた病院に限られます。

先進医療を開始するまでの流れ

STEP 1:対象技術の確認
自院で実施したい技術が厚労省の先進医療リスト(先進医療A・先進医療B)に含まれているか確認します。先進医療Aは医薬品・医療機器の承認前の技術、先進医療Bはより高度な臨床試験を経るものと大別されます。

STEP 2:施設基準の評価
当該技術に対して定められた施設基準(担当医師の資格・経験年数、設備・機器、診療件数実績など)を自院が満たしているか確認します。

STEP 3:地方厚生局への届出
管轄の地方厚生局(近畿厚生局など)に必要書類を提出し、承認を受けます。

STEP 4:患者への説明と同意取得
技術料の金額・内容・リスクを文書で説明し、インフォームドコンセント(書面同意)を取得します。

STEP 5:実績報告と継続評価
承認後も定期的に実施件数・費用・転帰を地方厚生局に報告し、毎年の実績評価を受けます。

先進医療A・Bの違いを理解する

先進医療は「先進医療A」と「先進医療B」に分類されます。先進医療Aは未承認の医薬品・医療機器を用いない技術(主に外科手術の技法など)で、施設基準を満たせば届出だけで実施できます。先進医療Bは未承認の医薬品・医療機器を用いるものや効果が十分に確認されていない高度医療で、より厳格な審査と厚生労働省の承認が必要です。自院の診療領域や技術水準に照らして、どの分類に申請できる可能性があるかを専門家とともに確認することが最初の作業です。

先進医療が病院にもたらすメリット

専門領域で先進医療を提供できると、地域における認知度の向上・専門医招聘時の訴求力向上・高付加価値医療への参入という3つの相乗効果が期待できます。高い技術料を設定できる技術も多く、件数が増えるほど安定したキャッシュフローにつながります。地域医療連携で紹介患者を獲得する戦略と組み合わせると、さらに効果的です。また、先進医療の提供実績は病院機能評価の申請や地域連携パスの構築においてもプラスに作用する場合があります。

先進医療の費用分担と提供体制のしくみ

予防・ウェルネス外来と自由診療サービスの展開

保険外収益のなかで成長余地が大きいのが予防医療・健康増進(ウェルネス)分野です。超高齢社会において、疾患の予防や早期発見・早期介入に対する患者ニーズは高まっており、こうしたサービスを病院が主導して提供する動きが広がっています。

展開しやすいウェルネス系サービスの例

がん検診(保険外オプション付き)
公費がん検診に加えて、より精密な追加検査(腫瘍マーカー・造影CT・MRI全身検査など)を自費オプションとして提供する形態です。既存の健診部門との親和性が高く、追加投資が比較的少なく始められます。

生活習慣病予防外来
糖尿病予備群や高血圧リスク者を対象に、個別カウンセリング・栄養指導・運動指導を自費サービスとして設定します。保険診療の生活習慣病管理と区分したうえで、予防的介入を希望する患者層をターゲットにします。

禁煙サポートの自費プラン
保険適用の禁煙外来と並行して、スマートフォンアプリ連携・個別コーチング・グループセッションなど付加価値を加えた自費プランを設けることが可能です。

抗加齢(アンチエイジング)外来
一定の医師体制と設備があれば、保険診療と独立した形で自由診療として提供できます。ただし保険診療と同一の診療行為として混同されると混合診療禁止に抵触するため、メニューの区分管理と広告表現に注意が必要です。

企業・健保組合との法人契約も収益源

予防・ウェルネス外来の展開において有効な手段の一つが、地域企業や健康保険組合との法人契約です。企業の従業員健康管理・メンタルヘルス対策・産業医機能の強化を目的とした提携を結ぶことで、安定した法人顧客からの収益を確保できます。中小企業が多い地域では、かかりつけ医的な機能と予防医療を組み合わせた提案が受け入れられやすく、地域密着型の病院経営と相性が良い手法です。法人契約の際は契約内容・サービス範囲・報酬形態を文書化し、健保法上の問題がないことを事前に確認しておきましょう。

導入前に確認すべき法的ポイント

自由診療メニューは保険診療と明確に分離し、料金の院内掲示(医療法・医療広告ガイドラインに準拠)と患者への事前説明を徹底することが前提です。体験談の掲示・比較広告・効果の過大表現は規制対象です。また、医師・看護師等のスタッフリソースを確保するため、診療科別の稼働計画を立ててから導入することが重要です。

予防・ウェルネス外来の展開ロードマップ

保険外収益を管理する院内体制と注意点

保険外収益は患者との直接的な金銭授受が発生するため、トラブル防止と法令遵守の体制構築が欠かせません。また保険収益と異なり、診療報酬請求システムの外側で処理されるケースが多いため、経理・医事課と連携した専用の管理フローが必要です。

同意書・説明書の標準化

差額ベッド料・先進医療・自由診療のいずれも、患者への書面説明と同意取得が義務づけられています。病院全体で統一した書式・フローを整え、電子カルテとの連携を含めて取得漏れが起きない仕組みを構築しましょう。特に差額ベッド料は病棟師長を通じた同意取得が実務の起点となるため、病棟ごとの標準手順書(SOP)の整備が有効です。

収益の月次モニタリング

保険外収益を種別(選定療養・先進医療・自由診療)ごとに月次で集計し、件数・単価・稼働率を経営指標として経営会議に報告する体制を作ります。目標値との差異を早期に把握し、サービスラインの改善や価格見直しにつなげることが求められます。

医療広告規制への対応

保険外サービスについても医療広告ガイドラインが適用されます。Webサイトやパンフレット制作時には、掲載内容が規制に準拠しているか法務・コンプライアンス担当が定期的に確認する体制を設けましょう。患者体験談や比較表現は規制対象となるため、特に注意が必要です。

スタッフへの周知と研修

保険外収益の設定根拠・請求要件・患者対応の注意点を、受付・医事課・病棟看護師まで共有します。特に差額ベッド料は病棟での同意取得に直結するため、病棟師長を含めた定期研修が有効です。外部講師や医療経営コンサルタントを活用した体制整備も選択肢の一つです。

保険外収益管理の院内体制チェックリスト

まとめ

保険外収益の拡大は、診療報酬依存の収益構造に変化をもたらす有効な経営改善策です。選定療養(差額ベッド料)・先進医療・予防外来・自由診療の4本柱を、自院の規模・患者層・地域性に合わせて組み合わせましょう。法令遵守と患者満足を両立しながら段階的に強化し、成果を月次で数値化して経営改善計画に組み込むことが持続的な収益向上につながります。まずは差額ベッド料の同意取得フロー整備と月次モニタリングから始め、体制が整ったら先進医療や予防外来へ段階的に展開するアプローチが現実的です。

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出典・参考文献

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