承継の相談で最初に議論されるのは、たいてい「いくらで」です。しかし実務でより重い判断は、「どのスキームで」のほうです。
なぜなら、スキームによって次のすべてが変わるからです。
- 理事長個人の手取り(課税関係が根本的に違う)
- 完了までの期間(3か月で終わるものと、1年以上かかるものがある)
- 病床・保険医療機関指定の扱い(承継されるか、取り直しか)
- 職員の雇用(そのまま移るか、いったん退職・再雇用か)
- 隠れた債務の引き継ぎ(包括承継か、選べるか)
同じ金額で合意していても、スキームが違えば理事長の手取りは数千万円変わり、承継の完了時期は半年ずれます。
まず確認すべき分岐:持分の有無
すべてはここから始まります。
- 持分あり医療法人(平成19年3月31日以前設立の経過措置型) 出資持分という「財産権」があるため、出資持分の譲渡という選択肢が使えます。株式譲渡に近い、最もシンプルな形です。
- 持分なし医療法人(平成19年4月以降の設立、または移行済み) 出資持分という財産権が存在しません。したがって「持分を売る」ことはできず、事業譲渡か合併か、理事長交代による経営権の移転という形をとります。
自院がどちらかは、定款(寄附行為)と登記事項証明書で確認できます。ここを取り違えたまま話を進めると、後から全部やり直しになります。
4つのスキームの全体像
| スキーム | 使える法人 | 移転するもの | 中心となる課税 |
|---|---|---|---|
| ① 出資持分の譲渡 | 持分あり | 出資持分(=法人はそのまま) | 譲渡所得(個人) |
| ② 事業譲渡 | 持分あり/なし | 個別の資産・負債・契約 | 法人の譲渡損益+消費税 |
| ③ 合併・分割 | 持分あり/なし | 権利義務を包括的に | 適格/非適格で大きく変動 |
| ④ 理事長交代(経営権移転) | 主に持分なし | 経営権(役員構成の変更) | 対価の性質により個別判断 |
ここから先は、それぞれのスキームの実務上の中身と、選択を誤ったときに何が起きるかを見ていきます。