「うちの病院は、いくらになりますか」
承継やM&Aの相談で、必ず最初に出る質問です。そして多くの場合、返ってくるのは「案件によります」「market次第です」という答えです。間違ってはいませんが、これでは判断できません。
実際には、病院の値段は3つの手法のどれか(または組み合わせ)で計算されます。計算式そのものは、決算書があれば理事長ご自身でも追えるものです。問題は、その式に入れる数字の作り方と、どの調整項目で数千万円が動くかを知っているかどうかです。
病院の評価が「一般企業の評価」と違う3点
- 持分の有無で、そもそも売買の対象が変わる 持分あり医療法人なら「出資持分の譲渡」、持分なし医療法人なら「事業譲渡」または「理事の交代(実質的な経営権の移転)」になります。同じ病院でも、スキームが変われば評価の土台が変わります。
- 病床が価値の中核にある 地域医療構想と基準病床数の下では、新規に病床を得るのは極めて困難です。したがって「稼働している病床」そのものに、収益力とは別の希少価値が乗ります。逆に、休床が長期化した病床は評価されないことが多い。
- 人が抜けると価値がゼロに近づく 常勤医師1人が抜けただけで、診療科ごと閉じる可能性がある。一般企業の「のれん」よりも、人的資本への依存度が桁違いに高いのが病院です。
3つの評価手法の使い分け
| 手法 | 主な使いどころ | 長所 | 弱点 |
|---|---|---|---|
| 時価純資産+営業権法 | 中小病院のM&A実務で最も多い | 決算書ベースで検証しやすい | 将来の伸びを織り込みにくい |
| EBITDA倍率法(マルチプル) | 買い手側の初期スクリーニング | 他案件と比較できる | 倍率の根拠が曖昧になりがち |
| DCF法 | 大型案件・ファンドの投資判断 | 理屈が通る | 前提次第で答えが2倍変わる |
実務では、時価純資産+営業権法で土台をつくり、EBITDA倍率法で妥当性を検算するのが最も再現性が高いやり方です。DCFは、買い手が投資委員会を説得するための資料として使われることが多く、売り手が価格を主張する根拠としては弱いことを知っておいてください。
ここまでが「どの手法があるか」の話です。ここから先は、実際に電卓を叩く部分に入ります。