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経営指標・データ

病床利用率の推移と都道府県別格差 — 全国データで読む病院経営の現在地

監修者 藤井翔悟

2026-09-23 | NPO法人日本はすばらしい 病院経営支援チーム
監修: 藤井翔悟(医療機関経営支援16年・累計1,000院以上)

病院経営において「病床利用率」は最も基本的であり、かつ最も重要な経営指標の一つです。厚生労働省の2024年病院報告によれば、全病床の全国平均は77.0%、一般病床に限ると73.3%とされています。この数字が何を示すのか、損益分岐点と照らし合わせると見えてくることがあります。損益分岐点は一般的に80%前後とされており、全国平均はその水準を下回っているのが現状です。

利用率が低迷する背景には、人口動態の変化、医療需要の構造変化、コロナ禍以降の患者行動の変容、そして地域ごとの医療資源分布の偏りがあります。この記事では、病床利用率の推移と都道府県間の格差を多角的に分析し、自院の経営改善に活かせる視点をお伝えします。

病床利用率とは何か — 経営指標としての位置づけ

病床種別の全国平均利用率と損益分岐点

病床利用率とは、実際に稼働中の病床のうち、どの程度が患者によって使われているかを示す指標です。計算式は以下のとおりです。

病床利用率(%)= 在院患者延数 ÷(病床数 × 暦日数)× 100

厚生労働省は毎月「病院報告」として全国集計値を公表しています。この数値は病院の規模・種別・地域によって大きく異なり、単純に全国平均と比較するだけでは自院の実態を把握しきれません。

病床利用率が経営に直結する理由は、病院の収益構造の大部分が入院患者数に依存しているためです。入院収益は在院患者数に入院単価を掛け合わせた形で積み上がり、固定費(人件費・施設費など)が高い病院においては、利用率の小さな変動が損益に大きな影響を与えます。

病院コストの5〜6割は人件費が占めるとされており、利用率が下がっても人件費はほぼ変わりません。つまり利用率の低下は、売上の減少と固定費の維持が同時に起きるという厳しい状況をもたらします。

一方で、利用率が高すぎる場合(概ね95%超)も問題があります。緊急入院の受け入れが困難になり、患者満足度の低下や医療安全リスクの増大につながります。週末・夜間の急な需要増に対応できず、スタッフへの負荷が集中しやすくなるという点も見逃せません。適正な利用率の水準は「高ければ高いほど良い」わけではなく、病棟機能や体制に合わせて判断する必要があります。

全国の病床利用率の推移 — コロナ後も続く低水準

病床利用率の推移イメージ(全国平均)

厚生労働省の病院報告2024年版によれば、**全病床の利用率は77.0%、一般病床は73.3%**となっています。この数値はコロナ禍前から続く緩やかな低下傾向を引き継ぐ形であり、明確な回復の兆しは数値上まだ限定的です。

コロナ禍(2020〜2022年度)では、感染防止を目的とした患者受け入れの抑制や、外来・入院患者の受診控えが急速に進みました。この影響で特に一般病床の利用率は大きく落ち込みました。その後の回復局面においても、高齢化に伴う医療需要の増加と平均在院日数の短縮が同時に進行しており、利用率が単純に元の水準へ戻るわけではありません。

背景として以下の構造変化が挙げられます。

  • 平均在院日数の短縮:入院機能の高度化や早期退院・在宅復帰の推進により、一患者あたりの在院日数が年々短くなっています。回転率は上がっても、常時の在院患者数は増えにくい構造です
  • 病床数の過剰供給:高度成長期に整備された病床が、人口減少・高齢化の中で需要との乖離を生じさせています。地域によっては病床が余剰となり、利用率が構造的に低迷するケースがあります
  • 機能分化の進展:急性期・回復期・療養期の機能分化が進み、急性期病床の稼働が集中しやすい反面、他の機能種別では利用率が低迷するケースも見られます
病床種別 全国平均利用率(2024年) 備考
全病床 77.0% 厚労省 病院報告2024
一般病床 73.3% 損益分岐点80%前後に未達
療養病床 施設により異なります 定員管理の方式が異なる
精神病床 施設により異なります 長期入院構造が影響

療養病床や精神病床については、入院の長期化や定員管理の仕組みの違いから、利用率の算出方法や意味合いが一般病床とは異なります。比較の際は慎重な解釈が必要です。

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病床種別による利用率の違い — 種別ごとに異なる構造

病床種別ごとの利用率特性比較

病床利用率は「全病床の平均」だけで語ることはできません。急性期・回復期・療養・精神という病床の種類によって、利用率の目安と課題が大きく異なります

急性期一般病床は、入退院回転率が高く、緊急入院や手術患者を受け入れる性質上、「空き」をある程度確保する必要があります。しかし、利用率が70%台にとどまる施設では、急性期機能の維持に必要な診療報酬(入院料・加算)を十分に算定できないリスクがあります。令和8年度改定では、急性期一般入院料1が1,688点から1,874点に引き上げられましたが、それを算定候補とするための施設基準(重症度・医療看護必要度等)の達成には一定以上の稼働密度が求められます。詳細は施設状況に応じて確認が必要です。

回復期リハビリテーション病棟は、リハビリ目的の長期入院が前提であり、比較的高い利用率を維持しやすい病棟機能です。しかし、対象疾患の制限があり、全国的に供給過剰傾向が強まっています。患者確保のためには急性期病院との連携強化が不可欠であり、紹介元との関係構築が利用率に直結します。

療養病棟は、医療依存度の高い慢性期患者を受け入れる機能を担います。令和8年度改定では療養病棟入院料1が1,964点から2,035点に改定されており、稼働確保のためにはケアミックス的な運用や訪問診療との連携が有効な場合があります。算定要件の詳細は各施設の基準を確認の上、判断してください。

精神病床は、入院の長期化という歴史的背景を持つ一方、地域移行・退院支援の強化が求められています。利用率が高いことが必ずしも望ましいわけではなく、地域医療との連携による患者の流れをどう設計するかが課題です。

都道府県別格差の実情 — 地域差が生む経営リスク

都道府県別の病床利用率格差イメージ

病床利用率の全国平均が77.0%であっても、都道府県間には相当の格差があります。一般に、都市部と地方では医療資源の密度、患者の選択肢の多様性、人口構造が異なるため、利用率の実態は大きく異なります

大都市圏(特に東京・大阪など)では複数の競合病院が存在し、患者の分散が起きやすい一方、人口集中により一定の需要は維持されています。地方・過疎地域では、患者数自体の絶対値が少ないため、需要と病床供給のミスマッチが生じやすい状況です。

地域格差がもたらす経営上の問題点は以下のとおりです。

  • 患者紹介ネットワークの強弱:紹介元クリニック・診療所との連携が薄い病院は、競合他院に患者を奪われやすい構造にあります
  • 医師確保の難しさ:利用率が低い地域ほど医師招聘コストが高まる傾向があり、コスト構造が悪化しやすいです
  • 行政支援の有無:公立・公的病院が多い地域では、民間病院との競合状況が異なり、利用率の維持が難しい場合があります

「施設ごとの利用率は何%が適正か」という問いに対する答えは一律ではありません。自院の病床種別、機能分化の方向性、地域の医療資源分布を踏まえて、自院にとっての目標値を設定することが重要です。

厚生労働省の病院報告データは都道府県・病床種別単位で公表されており、同種・同規模の病院との比較分析(ベンチマーキング)に活用できます。四病院団体協議会の病院経営定期調査や、福祉医療機構のWAM短観も、地域・規模別の動向を把握する上で有益な資料です。

損益分岐点との関係 — 利用率1%の金銭的重み

利用率と収益の関係シミュレーション

病床利用率は「割合」ですが、その変化が収益に与えるインパクトは非常に大きいものがあります。

検証済みファクトに基づくシミュレーション:

病院200床・入院単価5万円の施設の場合、利用率が1ポイント上昇すると、年間の入院収益は約3,650万円増加します(2床×5万円×365日の計算)。

利用率 年間稼働床日数 年間概算収益(単価5万円)
73%(全国平均水準) 53,290床日 約26.6億円
77%(全病床平均) 56,210床日 約28.1億円
80%(損益分岐点目安) 58,400床日 約29.2億円
85% 62,050床日 約31.0億円

※200床、365日で機械試算。実際は病床種別・入院単価・加算により大きく異なります。

この試算から明らかなのは、損益分岐点とされる80%水準に達するためには、一般病床の全国平均(73.3%)から6〜7ポイントの改善が必要であり、金額換算では年間2億円超の収益差が生じうることです。

赤字に苦しむ病院の多くが「利用率の壁」を超えられずにいる背景には、患者確保の難しさだけでなく、病棟運営・看護体制の制約、医師の不足、在宅支援の不備といった複合的な課題があります。帝国データバンクの2024年度調査によれば、民間病院約900法人の営業赤字は61.0%に上り、前年度の54.8%から悪化しました。四病協の2024年度病院経営定期調査・最終報告でも医業赤字74.6%・経常赤字65.6%という深刻な数字が示されており、利用率の低迷は多くの病院に共通する課題です。

損益分岐点に達しない病院が取りうる選択肢は大きく3つです。

  1. 利用率を上げる(患者確保・機能強化)
  2. 入院単価を上げる(加算算定・機能転換)
  3. 固定費を下げる(病床削減・業務効率化)

この3つを組み合わせて経営改善計画を立てることが、持続可能な病院経営への道筋となります。どれか一つに偏るのではなく、自院の強みと課題を客観的に分析した上で優先順位を定めることが重要です。

利用率改善に向けた経営的アプローチ

利用率改善のための6つのアプローチ

利用率を改善するために取り得るアプローチをまとめます。ただし、すべての病院に同じ手法が有効なわけではなく、自院の状況・機能・地域性に合わせた選択が必要です。

1. 紹介患者の取り込み強化

地域のクリニック・診療所との関係を深め、地域医療連携室の機能強化を図ります。紹介率・逆紹介率は診療報酬の施設基準にも関わるため、経営と診療の両面での目標設定が重要です。担当者が定期的に訪問し、信頼関係を構築することが患者紹介の安定化につながります。

2. 平均在院日数の適正管理

在院日数が長すぎると新規入院の余地が狭まり、短すぎると単価が落ちる場合があります。在院日数ごとの収益構造を把握し、最適なターゲット日数を設定します。疾患ごと・病棟ごとの実績を毎月モニタリングする体制を整えることが有効です。

3. 救急受け入れ体制の整備

急性期病院においては、救急受け入れ実績が地域からの認知度・紹介患者数に直結します。救急受け入れを通じた安定的な新規入院の確保は、利用率改善の基盤になります。救急体制の整備は短期的なコストを伴いますが、中長期的な収益安定化への投資として捉えることができます。

4. 病床機能の見直し・転換

稼働率の低い病棟は思い切って機能転換(例:急性期→回復期リハビリ、一般→療養)を検討します。令和8年度の診療報酬改定では、療養病棟や回復期リハビリ病棟の単価が引き上げられており、機能転換のメリットが出やすい環境になっています。ただし、算定可否は施設基準を個別に確認の上、判断することが必要です。

5. 退院支援・在宅復帰の強化

入院から退院後の生活まで見据えた退院支援を充実させることで、スムーズな患者の流れを作り、次の入院受け入れ余力を生み出します。在宅復帰率は診療報酬要件にも組み込まれているため、算定上のメリットにもつながります。多職種チームによるカンファレンスの定例化が、退院支援を実効的なものにします。

6. データに基づくベッドコントロール

週次・月次での病棟別・疾患別の利用率をモニタリングし、病棟師長・医師・事務が連携して入退院管理を行います。定性的な感覚ではなく、数値ベースのPDCAサイクルを確立することが持続的な改善の鍵です。電子カルテや経営ダッシュボードを活用し、タイムリーなデータ共有体制を構築することが望まれます。

まとめ

病床利用率の全国平均は2024年時点で全病床77.0%・一般病床73.3%と、損益分岐点とされる80%前後を下回っています。この数値は地域・病床種別・施設規模によって大きく異なるため、自院のデータを全国平均・同規模病院と比較しながら改善の優先課題を特定することが重要です。

利用率1ポイントの改善が年間数千万円単位の収益改善につながる可能性を持つことを踏まえ、患者確保・機能転換・コスト最適化の3軸で経営改善計画を立案することを推奨します。「なぜ利用率が上がらないのか」という構造的な原因分析から始め、地域の医療環境の変化を見据えた中長期的な視点で取り組むことが、持続可能な病院経営につながります。

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