「毎年、顧問税理士から分厚い決算書を受け取るが、正直どこを見ればよいのか分からない」——長く病院を率いてこられた理事長・院長から、しばしば聞く本音です。診療の現場には誰よりも精通していても、財務諸表となると身構えてしまう。これは決して珍しいことではありません。しかし、四病院団体協議会の2024年度調査では医業赤字の病院が74.6%にのぼるとされる厳しい時代にあって、決算書を自分の言葉で読めることは、理事長にとって診療と同じくらい重要な経営スキルになっています。本記事では、病院の決算書を構成する3枚の表の役割、それぞれの見どころ、病院ならではの経営指標、そして数字を改善行動につなげる読み方までを、専門用語に一言補足を添えながら整理します。

決算書は「3枚組」で読む — B/S・P/L・C/Fの役割

まず押さえていただきたいのは、決算書は一枚の紙ではなく、役割の異なる複数の表の組み合わせだということです。中心となるのは**損益計算書(P/L)・貸借対照表(B/S)・キャッシュフロー計算書(C/F)**の3枚で、これを「財務三表」と呼びます。それぞれが病院経営の別の側面を映しており、1枚だけでは経営の全体像はつかめません。

財務三表(損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書)がそれぞれ映す経営の側面を示した関係図

3枚の関係を一言でいえば、こうなります。損益計算書は「1年間でどれだけ儲かった(損した)か」という一定期間の成績表です。貸借対照表は「ある時点でどれだけの財産と借金があるか」という決算日の断面図です。そしてキャッシュフロー計算書は「現金が1年でどう増減したか」というお金の流れの記録です。利益が出ていても現金が足りない、あるいは赤字でも当面の資金は回っている——こうした一見矛盾する状況は、3枚を突き合わせて初めて理解できます。

医療法人には、これらに加えて事業報告書や附属明細書、社会医療法人などでは公告が求められる場合もあります。ただ、理事長がまず読めるようになるべきは財務三表です。「期間の成績(P/L)・時点の財産(B/S)・現金の流れ(C/F)」という3つの視点をセットで持つことが、決算書を読む出発点になります。

損益計算書(P/L)の見方 — 「医業利益」と「経常利益」を分けて見る

損益計算書は、多くの理事長が最初に目を通す表でしょう。ここで大切なのは、利益をひとくくりにせず、段階ごとに分けて見ることです。病院の損益計算書では、上から順に段階的な利益が並びます。この「どの段階の利益か」を意識するだけで、経営の状態がぐっと読み取りやすくなります。

損益計算書の段階利益(医業収益・医業利益・経常利益・当期純利益)の流れを段階的に示した図

最も重要なのは、医業利益経常利益の区別です。医業利益は、入院・外来などの医業収益から、給与費・材料費・委託費・減価償却費といった医業費用を差し引いたもので、本業である医療そのものでどれだけ稼げているかを示します。ここが赤字なら、事業構造そのものにメスを入れる必要があります。一方の経常利益は、医業利益に、補助金などの医業外収益や支払利息などの医業外費用を加減したものです。補助金や運用益で最終的に黒字を保っていても、医業利益が赤字というケースは珍しくなく、この場合は「本業は赤字だが外部要因で救われている」状態だと読み解けます。

四病院団体協議会の調査で医業赤字が74.6%、経常赤字が65.6%とされるのは、まさにこの2つの利益段階で赤字病院を数えた結果です。両者の差、つまり医業外の収支が経営をどれだけ下支えしているかを見ることで、自院の体質が見えてきます。損益計算書を見るときは、いちばん下の当期純利益だけでなく、「本業(医業利益)は黒字か」を必ず確認するようにしてください。

利益の段階 何を示すか 見るときの着眼点
医業利益 本業(医療)の稼ぐ力 ここが赤字なら事業構造の見直しが必要
経常利益 医業外損益を含めた通常の実力 補助金・支払利息の影響を確認
当期純利益 特別損益・税引後の最終結果 一時的要因を除いた実力とのズレを見る

貸借対照表(B/S)の見方 — 「自己資本」と「借入」のバランス

貸借対照表は、決算日という一時点における病院の財産の状態を、左右で対比させた表です。左側(資産の部)には現金・預金、医業未収金、建物・医療機器といった「持っているもの」が並び、右側には負債の部(借入金など「返すべきもの」)と純資産の部(返済不要の「自前の元手」)が並びます。左右の合計は必ず一致するため、バランスシートと呼ばれます。

貸借対照表の左右構造(資産と、負債・純資産)と自己資本比率の考え方を示した図

理事長がここで最初に見るべきは、右側の「純資産(自己資本)が全体のどれくらいを占めるか」です。総資産に対する純資産の割合を自己資本比率と呼び、この比率が高いほど、借入に頼らない安定した財務体質だと評価されます。逆に純資産が薄く、負債が資産を上回って純資産がマイナスになった状態が「債務超過」で、金融機関の融資審査や事業承継の場面で大きなハンディとなります。

もう一つ大切なのが、資産と負債の「時間の長さ」を合わせて見る視点です。1年以内に現金化・返済されるものを流動資産・流動負債、長期にわたるものを固定資産・固定負債と呼びます。建物や高額な医療機器という固定資産を、短期の借入で賄っていないか——固定資産は自己資本や長期借入で賄うのが財務の原則です。ここがずれていると、返済のたびに資金繰りが苦しくなります。病院は建物・設備という大きな固定資産を抱える装置産業であり、貸借対照表の左右のバランスは、そのまま資金繰りの安定度に直結します。

キャッシュフロー計算書の見方 — 利益と現金は別物

「黒字なのに金庫にお金がない」——この一見不可解な現象を説明してくれるのがキャッシュフロー計算書です。損益計算書上の利益は、減価償却費のように現金支出を伴わない費用や、まだ入金されていない医業未収金を含んで計算されます。そのため、帳簿上の利益と、実際に手元に残る現金は一致しません。理事長として資金ショートを避けるには、利益だけでなく現金の動きを追う習慣が欠かせません。

キャッシュフロー計算書の3区分(営業・投資・財務)と読み取りのポイントを示した図

キャッシュフロー計算書は、現金の増減を3つの区分に分けて示します。第一の営業キャッシュフローは、日々の診療活動で生み出した現金で、ここがプラスであることが健全経営の基本です。第二の投資キャッシュフローは、医療機器の購入や建物の改修などにかかった現金で、設備投資をすればマイナスになります。第三の財務キャッシュフローは、借入や返済に伴う現金の動きです。

読み方のコツは、営業キャッシュフローで稼いだ範囲内で投資をまかなえているかを見ることです。営業でしっかり現金を生み、その中で計画的に投資し、借入返済を進められていれば、財務は好循環にあります。逆に、営業キャッシュフローが慢性的にマイナスで、借入(財務キャッシュフローのプラス)で穴を埋め続けている状態は、資金繰り悪化の典型的なサインです。減価償却費は現金の出ない費用なので、営業キャッシュフローを見る際は「当期純利益+減価償却費」を大まかな目安に、返済原資が確保できているかを確認するとよいでしょう。

病院ならではの経営指標 — 人件費率・医業利益率・病床利用率

決算書の数字は、単独の金額よりも、割合(比率)に直して初めて意味を持ちます。同じ「給与費10億円」でも、収益が15億円か30億円かで評価は正反対です。ここでは病院経営で特に重視される指標を押さえておきましょう。学術研究でも、人件費をはじめとする指標を用いた病院経営の分析が重ねられてきました。

病院経営で重視される主要指標(人件費率・医業利益率・病床利用率など)と目安の考え方を整理した一覧図

第一に人件費率です。医業収益に対する給与費の割合で、病院のコストの5〜6割は人件費が占めるといわれるほど、経営を左右する最重要指標です。この比率が高すぎれば利益を圧迫しますが、医療は人が支えるサービスであり、単純に低ければよいというものでもありません。自院の推移や、同じ機能・規模の病院との比較で読むことが大切です。第二に医業利益率(医業収益に対する医業利益の割合)で、本業の収益力を測ります。第三に、病院特有の指標として病床利用率があります。厚生労働省の病院報告では全病床の全国平均が77.0%、一般病床が73.3%とされ、損益分岐点は一般に80%前後といわれます。利用率は入院収益の土台であり、決算書の医業収益の背後にある「稼働の実態」を映します。

これらの指標は、金額だけを眺めていては見えてきません。決算書の数字を比率に直し、時系列と他院比較の2つの物差しで読む——この一手間が、決算書を「読める」水準に引き上げてくれます。指標の目安については、関連記事もあわせてご覧ください。

決算書を経営改善につなげる読み方 — 時系列・比較・部門別

決算書は、眺めて終わりにするための書類ではありません。過去との比較、他院との比較、そして次の一手の検討——ここまでつなげて初めて、決算書は経営の道具になります。経営分析データを活かして病院経営の改善につなげる取り組みは、学術の場でも実践的なテーマとして論じられてきました。

決算書を「時系列比較・他院比較・部門別分析・改善行動」の順に経営改善へつなげる流れを示した図

第一に、時系列で読むことです。単年度の黒字・赤字に一喜一憂するのではなく、3〜5年の推移で医業利益率や人件費率、自己資本比率がどう動いているかを追います。傾向が悪化しているなら、単年度は黒字でも早めの手当てが必要です。第二に、他院と比較することです。福祉医療機構(WAM)の病院経営動向調査や決算に関するリサーチレポートなど、公的機関が公表する平均値を物差しにすれば、自院の数字が業界の中でどの位置にあるかが分かります。第三に、可能であれば部門別・診療科別に分解することです。病院全体では黒字でも、特定の部門が足を引っ張っている、あるいは支えているという構造は、全体の数字だけでは見えません。

そして最後に、読み取った課題を具体的な行動に落とし込むことです。人件費率が高いなら人員配置や加算の取得状況を、病床利用率が低いなら地域連携や病床機能を、といった具合に、数字の裏にある原因へと踏み込みます。令和8年度診療報酬改定では本体が約30年ぶりに3%を超える+3.09%と決まり、賃上げや物価への対応が政策的に後押しされます。こうした外部環境の変化を、自院の決算書という物差しに引き寄せて読むことができれば、決算書は過去の記録から未来を描くための地図へと変わります。数字の解釈に迷う場面では、顧問税理士や中立の第三者に相談することをお勧めします。

まとめ — 決算書は理事長の「もう一つの聴診器」

病院の決算書は、損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書という3枚組で読むのが基本です。損益計算書では医業利益と経常利益を分けて本業の稼ぐ力を確かめ、貸借対照表では自己資本比率と資産・負債のバランスから財務の安定度を測り、キャッシュフロー計算書では利益とは別物の現金の流れを追います。そのうえで、人件費率・医業利益率・病床利用率といった指標を比率に直し、時系列と他院比較の物差しで読むことで、数字は初めて経営の言葉になります。

医業赤字が74.6%とされる時代に、決算書を人任せにせず、自分の言葉で読めることは、理事長にとって診療における聴診器のような、経営の状態を確かめる基本の道具です。まずは手元の直近3年分の決算書を並べ、医業利益と自己資本比率の推移を追うことから始めてみてください。読み解きに不安があれば、顧問税理士や中立の専門家とともに、一つずつ数字の意味を確認していくことをお勧めします。

よくある質問

Q1. 決算書のどこから見ればよいですか。 まずは損益計算書の「医業利益」を確認し、本業である医療そのものが黒字か赤字かを見てください。次に貸借対照表の自己資本比率で財務の安定度を、キャッシュフロー計算書の営業キャッシュフローで現金を生む力を確かめます。この3点をセットで見るのが出発点です。

Q2. 黒字なのに資金繰りが苦しいのはなぜですか。 損益計算書上の利益には、現金支出を伴わない減価償却費や、まだ入金されていない医業未収金が含まれるため、帳簿上の利益と手元の現金は一致しません。加えて借入金の返済は費用ではなく現金の流出です。キャッシュフロー計算書で実際の現金の動きを追うと、この差の原因が見えてきます。

Q3. 自院の数字が良いのか悪いのか判断できません。 金額を比率に直したうえで、自院の3〜5年の推移(時系列比較)と、福祉医療機構などが公表する平均値(他院比較)の2つの物差しで読むと、位置づけが分かります。同じ機能・規模の病院と比べることが特に重要です。

関連記事

出典・参考文献

無料メールで病院経営の実務メモを受け取る

診療報酬・加算・承継・経営改善の重要ポイントを、経営判断に使える短いメモとして届けます。

無料メールを受け取る