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病院のグループ経営戦略 — 複数施設の連携と本部機能の設計

監修者 藤井翔悟

2026-10-11 | NPO法人日本はすばらしい 病院経営支援チーム
監修: 藤井翔悟(医療機関経営支援16年・累計1,000院以上)

四病院団体協議会の2024年度最終報告によれば、病院の**医業赤字率は74.6%、経常赤字率も65.6%**にのぼる。帝国データバンクの2024年度調査では、民間病院約900法人の61.0%が営業赤字を計上しており、前年度の54.8%から悪化が続いている。こうした環境の中、単独施設だけで黒字を持続させることは地域・規模を問わず困難になっている。

この状況に対応する経営戦略の一つとして、近年注目を集めているのが**「グループ経営」**だ。複数の施設を一つの傘のもとで連携・統合させ、機能分担と経営資源の共有によって収益性と持続可能性を同時に高めるアプローチである。急性期病院が回復期・在宅施設を傘下に置くケース、地方の中小病院が周辺の診療所を束ねて一体的に運営するケースなど、形態は多様だ。

本記事では、グループ経営を検討する理事長・院長・事務長に向け、選択できる形態の整理から本部機能の設計・実践上の注意点まで体系的に解説する。

なぜいま「グループ化」なのか — 単独経営の限界

単独経営が直面する3つの構造的課題

病院を単独で経営し続けることの難しさは、大きく三つの構造的要因に集約される。

①コスト構造の硬直化

病院経営費の5〜6割は人件費が占める。看護師・医師・コメディカルの採用難と賃金上昇が続く中、単独施設では採用コストや教育投資を吸収しにくい。令和8年度診療報酬改定では本体プラス3.09%(約30年ぶりの3%超)が認められたが、その内訳の1.70%は賃上げ対応分であり、人件費上昇分を自動的に賄うものではない。規模の小さい病院ほど一単位当たりの固定費負担は重くなり、コスト構造が硬直化しやすい。

②病床利用率の低下リスク

厚生労働省の病院報告(2024)によれば、全病床の平均利用率は77.0%、一般病床では73.3%にとどまる。損益分岐点は一般に80%前後とされるため、多くの病院が慢性的に分岐点を下回っている。急性期一辺倒の機能では在院日数短縮の圧力に耐えきれず、回復期・慢性期・在宅施設との連携がなければ適切な転棟先を確保しにくい状況が続く。

③後継者不在と人材確保難

医療業の後継者不在率は6割を超え、医療機関の倒産は2025年に66件、休廃業・解散は823件と2年連続で過去最多となった(帝国データバンク2025年調査)。後継者がいない単独施設はM&Aか廃院の二択に迫られるが、グループ内であれば法人内の人材登用や法人格統合によって円滑な世代交代を図れる可能性がある。

これらの課題に対し、グループ経営は「コスト吸収・機能補完・人材確保」の三つを同時に解決するアーキテクチャとして機能しうる。

グループ経営の主な形態 — 3つの選択肢

グループ経営3形態の比較

グループ化の方法は、法的形態と連携の深さによっていくつかの選択肢がある。代表的な三類型を整理する。

① 医療法人の統合・法人格一本化

複数の医療法人を合併(吸収合併・新設合併)または出資持分の取得によって一つの法人に統合する形態だ。意思決定が一元化され、人事・財務・調達の完全統合が可能になる。統合後の組織は一つの理事会・監事会で管理され、複数施設は各院長が担う。

メリットは、ガバナンス・コンプライアンス対応の簡素化と、共有資源配分の自由度が高いことだ。デメリットは、合併手続きの複雑さと、旧法人の文化・組織風土の統合に時間とコストがかかることである。都道府県への変更認可が必要で、準備から認可取得まで半年〜1年以上を見込む必要がある。

② 複数法人の戦略的提携(契約型グループ)

法人格を維持したまま、経営管理委託契約・共同購買協定・人材派遣協定などによって実態上のグループを形成する形態だ。「経営受託」スキームもこの一形態であり、赤字法人の経営権を強者法人が受託するケースも近年増えている。

法人格を維持するため変更手続きが少なく、段階的に連携を深めやすい。一方、契約関係のみで縛るため、重要な意思決定で各法人の利害が衝突することがある点に注意が必要だ。

③ 地域医療連携推進法人の活用

2017年に創設された地域医療連携推進法人制度を利用し、複数の法人が参加法人として参画する形態だ。各参加法人は独立を保ちながら、法人間での医療機器共同利用・人材派遣・医薬品共同購買が制度的に可能となる。都道府県知事の認定が必要で、運営は推進法人が担う。

地域包括ケアシステムの担い手として位置づけられており、補助金・支援施策を活用しやすい面もある。行政との連携を重視するなら最も適した形態といえる。

スケールメリットの実態 — コストと収益への影響

グループ化によるスケールメリット4領域

グループ化によるコスト削減・収益向上効果は、主に以下の領域で発現する。

調達コストの低減

医薬品・診療材料の共同購買は、グループ規模が大きいほど価格交渉力が増す。複数施設が個別に取引していた場合と比べ、交渉次第でコスト削減が見込める。また、電子カルテ・医療情報システムのベンダーをグループで統一することで、保守・更新コストを抑えられるケースも多い。

採用・研修費の分散

採用広告や人材紹介会社へのフィーは施設単位で固定費化しやすい。グループで採用チームを一本化し、採用した人材を適材適所に配置することで一人当たりの採用コストを抑制できる。看護師・コメディカルの研修プログラムもグループ内で共通化すれば、外部研修費の重複支出を防ぐことができる。

バックオフィスの統合

法人ごとに専任スタッフを置いていた法務・税務・経理の一部をグループ本部に集約することで、バックオフィスの人員を最適化できる。ただし医療法人の税務は通常法人と異なる取り扱いが多く、グループ化後も各法人の法的独立性を適切に管理する必要がある。

病床利用率の相互補完

グループ内の急性期→回復期→慢性期・在宅のパスウェイが確立すると、患者の流れがグループ内で完結しやすくなる。急性期病院が損益分岐点の80%を割っている場合でも、回復期・在宅施設への患者誘導でグループ全体の稼働率を維持しやすくなる。200床・入院単価5万円の病院では、利用率1ポイント上昇が年間約3,650万円の増収に相当することを踏まえれば、この相互補完の経営インパクトは大きい。

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本部機能の設計 — 何を集約し、何を現場に残すか

本部集約機能と現場維持機能のマトリクス

グループ経営の成否を左右するのが「本部機能の設計」だ。集約が効果的な機能と現場(施設)に残すべき機能を混同すると、意思決定の遅延や現場の反発を招きかねない。

本部に集約すべき主な機能

機能 集約の効果 注意点
財務・資金調達 金融機関との一元交渉・キャッシュプール 各施設の収支は分離管理が必要
採用・人材管理 採用コスト削減・グループ内異動 職員の処遇・文化差への配慮
医薬品・材料調達 価格交渉力の向上 臨床ニーズを無視した強制はリスク
IT・システム管理 ベンダー統合・セキュリティ統制 各施設の業務フローに合わせた設定
法務・コンプライアンス 規制対応の標準化 医療事故対応は現場の即応性も重要

現場(各施設)に残すべき機能

診療内容・医師・看護師の配置・患者対応・地域との関係構築は施設固有の判断が優先される。本部が一方的に診療方針に介入すると医師の反発を招き、優秀な医師の離職につながる。「診療の独立性」と「経営の統合」のバランスをどう設計するかが、グループ本部機能の核心的テーマだ。

本部機能の規模設計にも注意が必要だ。本部が肥大化するとそれ自体がコスト増の要因になる。施設数が少ない段階で大きな本部組織を作ると、スケールメリットが出る前に固定費が先行するリスクがある。段階的に機能を移管し、各ステージで投資対効果を検証しながら拡充するアプローチが現実的だ。

経営情報の可視化

グループ経営を機能させるには、各施設の経営情報をリアルタイムに把握できる仕組みが不可欠だ。月次の施設別損益・病床利用率・人件費率などを本部が一元管理し、早期に異常値を検知できる体制が求められる。福祉医療機構の病院経営動向調査(WAM短観)などの外部ベンチマークと自施設データを定期的に照合することで、改善の方向性を数値で確認できる。

ガバナンスとカルチャー統合 — グループ化の落とし穴

グループガバナンスの3層構造

グループ化でしばしば失敗するのは、財務よりも「人と文化の統合」の問題だ。法人の合併や経営受託を通じてグループ化を果たしても、旧組織のカルチャー・価値観・処遇体系が残ったままでは、組織の分断と機能不全を引き起こしかねない。

理事会・監事会のガバナンス強化

複数施設をまとめる理事会は、施設長・専門家委員・外部理事を適切に配置しなければ形式的な会議体になる。特に家族経営から複数施設展開へ移行した法人では、理事会の意思決定プロセスを文書化し、専門経営者(事務長・CFO的役割)を登用することが求められる。医療法人のガバナンス改革は法的要件の変化とも連動しており、継続的な見直しが必要だ。

職員への丁寧な説明と処遇設計

M&Aや統合を経てグループ入りした施設の職員は、雇用や待遇の変化を不安視する。グループ加入直後に離職率が跳ね上がるケースも珍しくない。合流時には丁寧な説明会の実施と、処遇の最低ラインを保証する仕組みが不可欠だ。グループ全体の統一処遇基準を作るか、一定期間は施設別処遇を維持するかの判断は、施設間の賃金格差の大きさによって異なる。いずれにせよ、「処遇が悪くなる」という不安を早期に払拭することが最優先だ。

医師・院長との関係

院長の権限をどこまでグループ本部と共有するかは最も難しい問題の一つだ。医師は専門職意識が強く、「経営層から指示される」ことへの抵抗感を持つケースも多い。グループ入り後も院長に一定の裁量を残す設計と、定期的な経営情報の共有・対話を通じた信頼構築が不可欠だ。グループ経営の方針を院長が「自分事」として理解・共有できるような関与の機会を設けることが、長期的な安定に直結する。

グループ化を進める実践ステップ

グループ化実践5ステップ タイムライン

以下の5ステップが、グループ経営へ移行する際の基本的なロードマップとなる。

ステップ1: 自院の課題とグループ像の明確化

まず「なぜグループ化するのか」の目的を明文化する。コスト削減・後継者対策・機能補完・地域連携など、優先する目的によって選ぶ形態も変わる。目的が曖昧なままグループ化を進めると、統合後に方向性の不一致が生じやすい。

ステップ2: パートナー施設の探索・選定

自院の機能上の弱点を補える施設(急性期→回復期→在宅など)または地理的に連携効果の高い施設を洗い出す。医療法人仲介業者・M&Aアドバイザー、地域の医師会・病院協会のネットワークが探索の起点になる。財務状況だけでなく、医師・看護師の構成や地域での評判も重要な選定基準だ。

ステップ3: デューデリジェンス

財務・法務・医療安全・人事の各側面から相手施設を調査する。赤字の構造的原因・訴訟リスク・隠れた簿外債務・職員の離職傾向などを入念に確認する。財務デューデリジェンスは会計士・税理士、法務デューデリジェンスは弁護士との連携が必須だ。詳細については「病院M&Aのデューデリジェンスで見られる15項目」も参考になる。

ステップ4: 統合スキームの決定と行政手続き

法人統合・経営受託・連携推進法人のいずれかを選択し、都道府県への手続き(医療法人の変更認可等)を進める。法務・税務の専門家との緊密な連携が不可欠だ。行政手続きは時間がかかるため、選定完了後はすみやかに着手することが望ましい。

ステップ5: PMI(統合後マネジメント)の実行

統合直後の1〜2年が最も離職・混乱リスクの高い時期だ。本部機能の立ち上げ・情報システム統合・処遇調整・文化融合プログラムを並行して進め、定期的に進捗をモニタリングする。PMIを疎かにすると、財務上の統合効果を人的・組織的コストが上回る結果になりかねない。

まとめ

病院の単独経営が困難さを増す中、グループ経営は持続可能な医療提供体制を構築するための有力な選択肢の一つになっている。法人統合型・連携型・地域医療連携推進法人の三形態それぞれにメリット・デメリットがあり、自院の目的・規模・地域特性に応じた選択が求められる。

成功のカギは、財務的なメリットを追うだけでなく、本部機能の適切な設計と職員・医師との信頼関係を丁寧に構築することにある。グループ化は目的ではなく手段であり、地域の患者により良い医療を継続提供するための組織基盤づくりだ。

まず自院の課題を整理し、どの形態が最もフィットするかを専門家とともに検討することからはじめてほしい。

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出典・参考文献

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