令和8年度診療報酬改定(2026年6月1日施行)において、急性期病院の経営に直結する新加算が誕生しました。「看護・多職種協働加算」です。
急性期一般入院料4または急性期病院B一般入院料を算定する病棟で、看護職員と理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・管理栄養士・臨床検査技師といった多職種が一体となって病棟業務を担う体制を整備した場合に、1日あたり加算1:277点・加算2:255点が加算されます。
医業赤字74.6%・経常赤字65.6%という厳しい経営環境(四病協2024年度病院経営定期調査・最終報告)のなかで、この加算を取り込めるかどうかが急性期病院の収益構造を大きく左右します。本記事では、算定要件・施設基準・収益シミュレーション・準備ロードマップを、病院の理事長・院長・事務長の視点で整理します。なお、算定の可否は個別の届出内容や地方厚生局の審査によって異なりますので、本記事をもとに専門家への相談を強くお勧めします。
看護・多職種協働加算が生まれた背景
令和8年度診療報酬改定は、約30年ぶりの本体プラス3.09%(内訳は賃上げ対応+1.70%・物価対応+1.29%・政策改定+0.25%・適正化▲0.15%)という大幅改定です(日医on-line 令和8年度診療報酬改定 改定率は本体プラス3.09%に決定)。
このなかで急性期入院料の体系が再編され、急性期一般入院料1は1,688点から1,874点へと引き上げられました。一方で、急性期一般入院料4や急性期病院B一般入院料を算定する中規模・地域密着型の急性期病院は、従来の評価体系では看護師配置コストに見合う収益を確保しにくい状況が続いていました。
そこで登場したのが、人員の「量」ではなく「多職種の協働による質」を評価するという新しい発想です。病院のコストの5〜6割を占める人件費のなかで、多職種を病棟常駐させることには大きなコスト圧力があります。この加算はそのコストを診療報酬として正当に評価する初めての仕組みとして位置付けられており、厚生労働省は「多職種が専門性を発揮して病棟において協働する体制に係る評価」と説明しています(厚生労働省 個別改定項目について)。
医師のタスク・シフティングや多職種連携の質向上を制度的に支援するという政策意図もあり、今後の急性期病棟のあり方を変え得る制度改正として注目されています。
算定対象の入院料と点数の仕組み
看護・多職種協働加算は、対象とする入院料によって2つの区分に分かれています。
| 区分 | 対象入院料 | 加算点数(1日につき) |
|---|---|---|
| 看護・多職種協働加算1 | 急性期一般入院料4 | 277点 |
| 看護・多職種協働加算2 | 急性期病院B一般入院料 | 255点 |
注目すべきは、加算1を取得することで急性期一般入院料4+277点が令和8年度改定後の急性期一般入院料1(1,874点)とほぼ同等の評価に達する可能性がある点です。これは従来の入院料体系では見られなかった「収益構造の逆転現象」であり、下位区分の急性期病院が多職種活用によって上位区分相当の収益を確保できる道が開かれたことを意味します。
この加算は入院期間中を通じて算定できる可能性が高いとされており(令和8年度改定情報、leadssion.co.jp)、長期入院患者が多い病棟ほど累積インパクトが大きくなります。算定できる患者の範囲や期間については個別の確認が必要ですが、毎日算定できる加算であることから、経営インパクトとしては相当の規模になり得ます。
また、今回の改定では精神病棟向けの「精神病棟看護・多職種協働加算」も別途新設されており、精神保健福祉士・作業療法士・公認心理師を看護職員と合わせて配置した精神病棟も評価の対象となっています。精神科病院・ケアミックス病院においても算定候補となり得るため、個別に確認することをお勧めします。
算定に必要な3つの施設基準
加算を届け出るためには、3つの柱となる施設基準を満たす必要があります。いずれも相応のハードルがあり、まず現状の体制を詳細に確認したうえで、算定候補かどうかを見極めることが先決です。
柱①:人員配置基準(25対1配置)
最もコアな要件が人員配置基準です。10対1の看護師配置を超えた余剰看護師と、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・管理栄養士・臨床検査技師のいずれかを組み合わせて、入院患者25人に対して1人以上を常時配置することが求められます。
たとえば100床の病棟であれば、常時4人以上の(看護師余剰分+多職種の組み合わせ)スタッフが病棟に存在する状態を維持することが必要です。この要件を新たに満たすために多職種を採用する場合、人件費が先行するため、増収シミュレーションに基づいた採算性の確認が不可欠です(詳細は次節)。
すでに多職種が病棟で積極的に活動している病院では、現在のシフト体制を25対1換算で整理し直すことで、追加採用なしに要件を満たせる可能性もあります。まず現状の数字を確認することから始めましょう。
柱②:重症度・医療看護必要度の基準
重症度・医療看護必要度の基準は、急性期一般入院料1と同等の水準が求められます。
看護必要度Iを用いる場合:割合①28%以上・割合②35%以上
看護必要度IIを用いる場合:割合①27%以上・割合②34%以上
この基準は急性期一般入院料4の現行基準よりも高く設定されており、救急受入れや緊急入院が一定数見込まれる病棟でなければ到達が難しい水準です。自院の看護必要度データを月次で把握していない病院では、まずデータ収集・分析体制の整備そのものが第一の課題となります。
逆に言えば、すでに急性期1相当の患者像を受け入れているにもかかわらず入院料を急性期4や急性期Bで算定している病院にとっては、看護必要度の基準は比較的クリアしやすいかもしれません。直近6ヶ月分の看護必要度データを見直すことを強くお勧めします。
柱③:効率性・退院支援に関する基準
平均在院日数16日以内と、自宅等への退院割合8割以上が求められます。また、医療従事者の負担軽減・処遇改善体制の整備も要件に含まれています。
在宅移行支援・地域連携パスの整備・早期退院支援体制が整っている病院にとっては比較的クリアしやすい基準です。一方、入院の長期化傾向にある病院では、退院支援を専従で担う部門・担当者の設置や、地域包括ケア病棟への転棟の仕組みを整えることが先行作業となります。
なお、ベースアップ評価料(令和8年度改定で最大250点へ拡充)の算定要件と一部重複するため、両者を組み合わせることで処遇改善と収益確保を同時に実現できる可能性があります。算定可否の検討にあたっては、加算の組み合わせ戦略も含めて確認することをお勧めします。
収益シミュレーションと経営インパクト
では、実際に看護・多職種協働加算を取得した場合、どの程度の増収が見込めるのでしょうか。ここでは仮設例として、急性期一般入院料4を算定する50床の病棟・病床稼働率80%のケースを参考に考えてみます。
病床稼働率80%の50床では、1日の入院患者数は40人です。加算1(277点)を1日40人に算定できる場合、月額約332万円・年間約3,989万円の増収が見込まれるとする試算があります(med-cpa.jp 看護・多職種協働加算の新設を徹底解説)。これは仮設例であり、実際の増収額は個別の届出内容・算定患者数・査定状況等によって大きく異なります。
ただし、多職種の追加採用コストや余剰看護師配置コストが発生する場合、それらとの差引で採算を見ることが必要です。新規採用コストを上回る増収が見込めるかどうか、少なくとも以下の3点を確認することが重要です。
①既存スタッフで要件を満たせるか否か
現在のPT・OT・ST・管理栄養士・臨床検査技師の病棟関与実態を洗い出します。すでに病棟に一定時間常駐しているスタッフがいれば、追加採用なしで要件を充足できる可能性があります。
②追加採用の場合の損益分岐点
追加採用する多職種の年収相当(施設により異なります)と、加算による年間増収額を比較します。増収が人件費増加を大きく上回る場合は、積極的な採用投資を検討する根拠になります。
③他加算との相乗効果
ベースアップ評価料(最大250点)・物価対応料(急性期一般1で58点/日など)などの令和8年度改定の他の新設加算と組み合わせることで、入院単価の総合的な底上げが図れます。個々の加算の積み上げが、赤字脱却の出口となる病院は少なくないでしょう。
また、200床・入院単価5万円の病院では、病床利用率1ポイントの差が年間約3,650万円の増収に相当します(検証済みファクト)。加算による入院単価の上昇と病床利用率の維持・改善を組み合わせることが、急性期病院の収益最大化の王道です。
PwC Japanは令和8年度改定について「入院料の選択肢が複雑化する」と指摘しており(PwC Japan 2026年度診療報酬改定で複雑化する入院料の選択肢)、どの入院料と加算の組み合わせを選ぶかが経営の最重要課題の一つとなっています。
算定準備のロードマップ(4ステップ)
算定届出の準備は、施行後になって慌てて始めるのではなく、計画的に進めることが重要です。以下に一般的な準備ステップを示しますが、実際の手続きは個別の要件確認が必要です。
ステップ1:現状データの棚卸し(目安1ヶ月)
まず自院の現状を数字で把握します。必要なデータは以下の通りです。
- 現在の看護師配置人数(病棟ごとの10対1超の余剰人数)
- 多職種の病棟関与実態(PT/OT/ST/管理栄養士/臨床検査技師の勤務・病棟滞在時間)
- 直近6ヶ月の看護必要度データ(割合①②の月次推移)
- 直近6ヶ月の平均在院日数・自宅等退院割合
- ベースアップ評価料の算定状況
これらを把握できていない病院では、データ収集・分析体制の整備が第一優先です。数字を持たずに「うちは要件を満たせるか?」と判断することはできません。
ステップ2:ギャップ分析と体制整備(目安1〜3ヶ月)
現状と各基準のギャップを数値で把握し、解消策を検討します。
看護必要度が基準に届いていない場合は、救急受入れの強化・緊急入院の受け入れルール見直し・クリティカルパスの整備等で改善を図ることが考えられます。平均在院日数が16日を超えている場合は、入退院支援専任スタッフの設置・地域連携強化・後方病棟との連携プロトコルの整備が有効です。
多職種配置が不足している場合は、まず既存スタッフの病棟配置見直しを検討したうえで、採算性が確認できれば採用計画に進みます。新規採用は増収の見込みを確認してから判断することが基本です。
ステップ3:届出書類の準備・提出(目安3〜4ヶ月)
施設基準を満たした後、地方厚生局への届出を行います。書類の種類・記載方法は施設ごとに異なる部分もあり、記載漏れや基準の解釈誤りがあると受理されない可能性もあります。初回届出は診療報酬コンサルタントや医業経営コンサルタントのサポートを活用することを強くお勧めします。
ステップ4:算定開始後のモニタリング(継続)
届出後も看護必要度・平均在院日数・退院割合・多職種配置実態を月次でモニタリングします。基準を維持できているかを定期的に確認し、逸脱が見込まれる場合は速やかに対処することが重要です。算定要件を満たさなくなった場合は届出変更が必要になることがあります。
月次でモニタリングする仕組みを整えることは、この加算の維持だけでなく、病院経営全般の「数字で経営を回す文化」の醸成につながります。
病院種別の経営戦略:どう活かすか
看護・多職種協働加算は、すべての急性期病院に等しく適用できるわけではありません。自院の機能・規模・人員構成に応じた戦略的判断が必要です。
急性期一般入院料4を算定中の病院(直接の対象)
最も直接的な恩恵を受けられる層です。すでに看護師を10対1よりも手厚く配置しており、かつ多職種スタッフが病棟に一定の関与をしている病院では、追加採用なしで算定要件を満たせる可能性があります。
まず「今すでに25対1配置を実質的に達成しているか」を確認しましょう。既存の人員体制で届出できれば、追加コストなしで年間数千万円規模の増収が見込める算定候補となります。
急性期病院Bを算定中の地域密着型急性期病院
255点の加算2が対象です。急性期病院Bは比較的中小規模の急性期病院が多く、多職種が1つの病棟を担当するには人員が手薄になりがちです。しかし、高齢者の複合疾患や内科系患者が中心の病棟では、管理栄養士・PT/OTがすでに病棟と連携しているケースも少なくありません。現行の連携体制を「常時25対1配置」として届け出られるかを確認することが第一歩です。
7対1(急性期一般入院料1)を算定中の大規模病院
直接の対象外ですが、間接的な影響があります。これまで急性期4との収益格差が大きかったため、7対1の看護師確保競争が激しかったのですが、急性期4が加算で7対1相当に近づくことで、地域の中規模病院が多職種配置に転換する流れが生まれる可能性があります。地域の看護師需給環境が変化し得るため、採用戦略の見直しが必要になるかもしれません。
算定が難しい病院がとるべき方向性
重症度基準(看護必要度)を満たせない場合や、多職種採用が困難な地方病院では、無理にこの加算を目指すよりも、他の加算・入院料の適正選択や、算定漏れの発見・回収に注力する方が費用対効果の高い改善策になることもあります。
一般に、病院の算定漏れは診療報酬の算定漏れチェックリストを活用した定期的な点検によって発見できます。まずは「今算定できているはずの加算を確実に取れているか」を確認することが、経営改善の出発点です。
まとめ
令和8年度診療報酬改定で新設された看護・多職種協働加算は、急性期一般入院料4・急性期病院Bを算定する病院にとって、多職種活用によって収益を急性期一般入院料1相当まで引き上げ得る画期的な制度です。
要点の整理:
- 加算1(277点/日):急性期一般入院料4の病棟が算定候補
- 加算2(255点/日):急性期病院B一般入院料の病棟が算定候補
- 3つの施設基準:①25対1人員配置 ②看護必要度(急性期1相当)③平均在院日数16日以内・退院割合8割以上
- 算定可否は現状の看護必要度データ・多職種配置実績の棚卸しで判断
- 既存人員で要件を満たす病院は、早期届出を検討する価値がある
医業赤字が7割を超えるいまの時代、制度変更を「他人事」として眺めるか、「自院の経営機会」として積極的に取り込むかで、5年後の病院の姿は大きく変わります。まず今期の自院のデータを数字で確認することから、この加算への対応を始めてください。
関連記事
出典・参考文献
- 厚生労働省 個別改定項目について(令和8年度診療報酬改定)
- GemMed 2026年度改定答申: 基本診療料アップ・物価対応料新設・ベースアップ評価料拡充
- GemMed 医業赤字74.6%・経常赤字65.6%(四病協最終報告の解説)
- 日医on-line 令和8年度診療報酬改定 改定率は本体プラス3.09%に決定
- PwC Japan 2026年度診療報酬改定で複雑化する入院料の選択肢
- 【令和8年度診療報酬改定】看護・多職種協働加算の新設を徹底解説(med-cpa.jp)
- 【令和8年度改定】新設「看護・多職種協働加算」徹底解説(リージョンマネジメント株式会社)
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