病院再生ナビ

再生・経営改善

介護医療院への転換判断 — 療養病床の機能転換と経営メリット・デメリット

監修者 藤井翔悟

2026-10-24 | NPO法人日本はすばらしい 病院経営支援チーム
監修: 藤井翔悟(医療機関経営支援16年・累計1,000院以上)

療養病床を抱える病院経営者から、「このまま医療保険で続けるべきか、介護医療院に切り替えるべきか」という相談が増えています。令和8年度診療報酬改定で療養病棟入院基本料は一定の引き上げがあったものの、医業赤字が7割近くに達する厳しい経営環境が続く中(四病協2024年度調査)、病床の機能転換は待ったなしの経営課題です。本記事では、介護医療院の概要から経営的なメリット・デメリット、転換の判断基準、実務手続きまでを体系的に整理します。


1. 介護医療院とは何か — 創設の背景と位置づけ

介護医療院の位置づけ:療養病床体系の全体図

介護医療院は、2018年(平成30年)4月に介護保険法の改正によって新設された施設類型です。長年にわたり「廃止の方向性」が示されながら延命を繰り返してきた**介護療養型医療施設(介護療養病床)**の受け皿として生まれました。2024年3月末をもって介護療養病床は廃止が完了し、現在は移行先の選択が完結しています。

介護医療院の最大の特徴は、「長期にわたる医療と日常的な生活支援を一体的に提供する」という点です。従来の療養型施設では「医療か介護か」という二項対立がありましたが、介護医療院はその中間域をカバーします。対象となるのは医療依存度の高い要介護者であり、人工呼吸器管理・経管栄養・褥瘡治療などの医療処置が日常的に必要な方が入所することを想定しています。

介護医療院が「病院経営の選択肢」になる理由

病院が介護医療院を開設するには、既存の医療療養病床の一部または全部を「廃止・休止」し、同一建物内または別棟で介護保険施設として指定を受ける流れが一般的です。病院本体とは異なる施設種別になりますが、同一法人が運営することが多く、スタッフの異動・施設の共用・連携の仕組みを活かした一体運営が可能です。

療養病床の収入が診療報酬に左右される一方、介護医療院の収入は介護報酬(施設サービス費)の月額包括方式です。稼働率の変動が少なく、収入の見通しが立てやすいという経営上の利点があります。帝国データバンクの2025年調査によれば、医療機関の倒産・休廃業解散は2年連続で過去最多を更新しており、収入の安定化は死活問題といえます。


2. Ⅰ型・Ⅱ型の違いと選択基準

介護医療院Ⅰ型・Ⅱ型の主な違い

介護医療院にはⅠ型とⅡ型の2類型があり、対象入所者の医療依存度・人員配置基準・介護報酬水準が異なります。どちらを選ぶかは、転換元の病床特性と既存スタッフ構成によって決まります。

Ⅰ型:重篤な医療ニーズに対応

Ⅰ型は、主に**医療療養病床(20対1)**からの転換を想定した類型です。重篤な身体疾患を有する要介護者、または身体合併症を有する認知症高齢者を対象とします。医師は入所者48人に対し1人以上という比較的手厚い配置基準が求められます。

医療行為の対応力が高い分、施設サービス費は相対的に高い水準に設定されています。また、「重篤な症状の急変に対応する体制」が求められることから、急変時の後方病院との連携ネットワークが重要になります。

Ⅱ型:比較的安定した医療依存者向け

Ⅱ型は、Ⅰ型よりも医療依存度がやや低い入所者を対象にした類型です。かつての介護療養型医療施設(療養病床・25対1相当)からの転換も視野に入っていました。医師配置は入所者100人に対し1人以上とやや緩やかで、施設サービス費もⅠ型より低めです。

比較軸 Ⅰ型 Ⅱ型
主な対象入所者 重篤・高医療依存 比較的安定した医療依存
医師配置(目安) 48:1以上 100:1以上
介護報酬水準 高め やや低め
転換コスト 改修が必要な場合多い 比較的小規模な対応で可能

病院が今後の入院患者像を見据えてどちらを選ぶかは、地域の需要・競合施設・自院のスタッフ構成・資金力を総合的に検討したうえで判断するべきです。


3. 経営上のメリット — 安定収入・患者固定化・人員活用

転換前後の収入構造の変化(概念図)

介護医療院への転換には、病院経営の視点から複数のメリットがあります。

メリット①:収入の安定化

最大のメリットは収入の安定性です。診療報酬は出来高算定が中心であり、患者の入退院・検査オーダー・手術件数などによって月ごとの収入が大きく変動します。一方、介護医療院の介護報酬は「月額包括方式」が基本であり、入所者が安定して在籍していれば、一定の収入が見込めます。

病床利用率が全国平均で一般病床73.3%、全病床で77.0%(厚生労働省 病院報告2024)にとどまる中、損益分岐点とされる80%前後を下回り続ける療養病床を抱える病院には、安定した稼働率が見込める介護保険への移行が魅力的な選択肢になります。

メリット②:長期入所による患者の固定化

急性期病院と異なり、介護医療院では入所者が数か月から数年単位で在籍することが一般的です。患者獲得コストは初期に発生するものの、その後は継続的な収入につながります。地域の居宅介護支援事業者(ケアマネジャー)や地域包括支援センターとの関係を構築すれば、安定した入所者紹介ルートを確保できます。

メリット③:既存人材の活用

療養病棟で働いていた看護師・介護士・リハビリスタッフを、そのまま介護医療院に配置転換しやすいのも利点です。急性期病棟とは異なる患者層に慣れたスタッフが、介護医療院の業務文化にもなじみやすいといわれます。ただし、介護保険特有の記録様式・請求業務・ケアマネジャーとの連携など、習熟が必要な業務は存在します。

メリット④:物価対応・賃上げ改定の追い風

令和8年度の診療報酬改定では、療養病棟入院基本料1が改定前の1,964点から2,035点に引き上げられました。一方で介護報酬も定期改定によって一定の改善が図られており、医療・介護いずれの経営環境も改善方向にあります。社会的な賃上げ要請に応える人件費の捻出が必要な局面で、安定した収入基盤は重要です。病院の人件費は一般にコスト全体の5〜6割を占めるとされており、収入の安定なくして賃金改善は困難です。

メリット⑤:地域医療構想における「受け皿」機能の強化

政府が推進する地域医療構想では、医療機能の分化・連携が求められており、急性期病床の集約化と慢性期・在宅への転換が政策方向として明示されています。介護医療院はその流れの中で**「高度医療を終えた後の受け皿」**としての役割を担います。

地域の基幹病院や急性期病院との間でスムーズな患者移送ができる体制を構築することで、急性期側の病院から「在宅・施設移行困難患者の受け入れ先」として認知されるようになります。この地域連携の強化は、中長期的な入所者獲得に直結します。地域の要介護者が増加する一方で介護施設が不足している地域では、介護医療院の開設は社会的にも高いニーズに応える取り組みです。

メリット⑥:加算取得による収入の上積み

介護医療院の介護報酬は基本報酬(施設サービス費)に加え、様々な加算が設定されています。口腔・栄養スクリーニング加算、褥瘡マネジメント加算、排泄支援加算など、多職種が連携して取り組む質の高いケアを評価する加算群が充実しています。

また、介護職員の処遇改善や特定処遇改善を評価する処遇改善加算も介護施設には設けられており、診療報酬のベースアップ評価料と同様に、スタッフの処遇改善と施設収入の向上を両立できる仕組みが整備されています。ただし加算の算定可否は施設の体制・記録・届出状況によって異なるため、開設前に専門家と一緒に取得可能な加算を洗い出し、事業計画に織り込むことが必要です(具体的な点数・取得要件は各都道府県の指定担当窓口または介護報酬の告示・通知で確認が必要)。


無料・NPOによる中立診断

貴院の数字で、どの打ち手が現実的かをお返しします

  • 経営改善で戻せる状態なのか、それとも別の手が要るのか
  • 承継・譲渡を検討すべき時期に来ているか
  • 経営受託という第3の選択肢が使えるか
無料で経営の緊急度を診断する(入力5分)

営利のコンサルティング会社ではなくNPO法人が運営しています。営業電話やしつこい売り込みは一切ありません。 仲介手数料を目的とした紹介も行いません。

4. 転換に伴うデメリットと注意点

メリットが多い一方で、転換には相応のリスクと課題があります。理事長・院長が事前に把握しておくべきポイントを整理します。

デメリット①:初期投資コスト

施設基準(1人床の面積・多目的室・機能訓練室など)を満たすための改修工事が必要になる場合があります。規模によっては数千万円から億単位の投資になることもあり、資金計画が欠かせません。福祉医療機構(WAM)は介護施設の改修・整備に対応した融資制度を設けており、転換コストのファイナンス手段として活用できる場合があります。

デメリット②:診療報酬収入の喪失

医療療養病床を介護医療院に転換すると、その分の診療報酬収入は失われます。病院全体の収入構造が大きく変わるため、転換前に詳細な収支シミュレーションが不可欠です。特に、既存の急性期・回復期病棟の収益で法人全体を支えている構造の場合、療養病床の転換による影響は相対的に小さくなります。

デメリット③:請求・事務業務の大幅な変更

介護報酬の請求は、診療報酬とは全く異なるシステム・制度・書類に基づきます。国保連への電子請求、ケアプランとの整合性確認、介護認定の確認など、事務部門が習得すべき業務が増えます。電子カルテ・レセプトシステムの変更が必要になるケースも多く、IT投資の費用と時間を見込む必要があります。

デメリット④:人員確保の難しさ

介護医療院の管理者は医師または歯科医師に限定されており、病院とは異なる免許・資格要件が一部に課せられます。また、看護職員の必要数は確保できても、介護福祉士・介護職員の採用が追加で必要になる場合があります。医療法人の後継者不在率が6割超、診療所経営者の56.7%が70歳以上(帝国データバンク2025年調査)という高齢化が進む業界では、人員確保は普遍的な課題です。

項目 メリット デメリット
収入安定性 月額包括で変動小 初期の収入減少リスク
患者定着 長期入所で固定化 新規入所者獲得に継続的営業が必要
人材活用 既存スタッフが転用可 介護業務の習熟コスト
制度変更リスク 介護報酬改定でも安定的 次期改定で収入変動の可能性

5. 転換判断のポイント — どんな病院が検討すべきか

介護医療院への転換を検討すべきか — 判断フロー

すべての医療療養病床を持つ病院が介護医療院に転換すべきというわけではありません。転換が有力な選択肢になる条件と、見送るべき条件を整理します。

転換を前向きに検討すべきケース

  • 療養病床の病床利用率が慢性的に低迷している(目安として75%未満が続く場合)
  • 入院患者の多くが医療依存度が高く長期滞在傾向にある
  • 急性期病床からの転換を進め、慢性期ニーズに特化した経営を志向している
  • 地域に老健・特養などの介護施設が不足しており、介護医療院のニーズが見込める
  • 同一法人内でケアミックス経営(病院+介護施設)を構築したい

転換を慎重に考えるべきケース

  • 療養病棟の稼働率が高く(85%以上)、現在の診療報酬収入で経営が安定している
  • 急性期機能の維持・強化が地域医療上の使命として明確で、療養部門が急性期に補完的な役割を担っている
  • 建物の構造上、施設基準を満たす改修が著しく困難または費用が過大
  • 介護人材の確保が地域的に困難であると見込まれる

特に注意が必要なのは、「赤字だから転換する」という消極的な動機だけで判断することです。介護医療院に転換しても、入所者獲得・人材確保・業務移行に相応のコストと時間がかかります。転換後の事業計画を金融機関・WAMへの説明資料として整備できるレベルで詰めてから決断することを強くお勧めします。


6. 転換の実務手続きとスケジュール

介護医療院 開設前チェックリスト(主要項目)

介護医療院への転換 標準タイムライン

転換の実務は大きく「①計画・シミュレーション」「②行政協議」「③施設改修・人員確保」「④指定申請」「⑤開設」の5段階で進みます。標準的な準備期間は開設予定日の6か月以上前から着手するのが望ましく、改修規模が大きい場合は1年以上かかることもあります。

ステップ1:収支シミュレーションと法人内意思決定

転換前に必ず行うべきは、現在の療養病棟収入と転換後の介護医療院収入の比較シミュレーションです。

  • 現在の療養病棟入院基本料収入(稼働率・入院単価を基に試算)
  • 転換後の施設サービス費収入(Ⅰ型orⅡ型・稼働率見通しに基づく試算)
  • 改修費・追加人件費などの初期コストと回収期間

数値の組み立ては、WAMの病院経営動向調査データや、四病協の定期調査データを参考にしながら、自院の実態に近い仮定で行ってください。介護報酬の点数は都道府県への届出内容により加算が変わるため、当初計画段階では加算取得に慎重な仮定を置くことをお勧めします。

ステップ2:都道府県・保健所との事前協議

介護医療院の開設には都道府県知事による介護保険施設の指定が必要です。病院の許可を持つ都道府県の保健医療担当部局と、介護施設を担当する福祉担当部局の双方と連携する必要があります。特に建物の構造変更が伴う場合は建築確認が必要になることもあり、自治体によって審査の流れが異なります。早期の事前相談が重要です。

ステップ3:施設改修と人員確保

施設基準として特に注意が必要なのは居室の面積要件です。Ⅰ型では1人当たり床面積が一定基準以上であることが求められます。既存の多床室を改修する場合、部屋数が減少することで収容定員が下がることもあります。改修計画は建築士と連携して精緻に設計してください。

人員面では、看護師に加えて介護職員(介護福祉士等)を補充採用することが多くなります。処遇改善加算の取得要件を踏まえた労務計画も同時に策定が必要です。

ステップ4:指定申請書類の整備と提出

指定申請には、施設の平面図・人員一覧・運営規程・サービス提供の指針など多数の書類が必要です。申請書類の不備による審査遅延を防ぐため、都道府県の指定申請マニュアルを事前に入手し、専門家(社会福祉士・行政書士・コンサルタント等)の支援を得ながら進めることを推奨します。

また、指定申請と並行して介護給付費算定に係る体制等届出書の提出も必要です。この届出によって加算の算定が可能になりますが、算定開始時期には一定のルールがあります。開設日に間に合うよう、届出スケジュールも前もって把握しておきましょう。

転換後の経営安定化に向けて

転換後の経営は「開設すれば安定する」ものではありません。入所者獲得の営業活動(居宅介護支援事業所・地域包括支援センターへの訪問・情報提供)を継続的に行うことが欠かせません。地域のケアマネジャーが介護医療院の存在・特徴・受け入れ基準を把握していなければ、紹介は生まれません。

開設後6か月程度で入所率がある程度固まるケースが多いとされますが、初期の稼働率低下期間に備えた運転資金の確保(WAM融資の活用等)も重要な経営課題です。帝国データバンクの調査によれば医療機関の倒産・休廃業解散は2年連続で過去最多(2025年)となっており、資金繰り管理を怠ると転換後の経営悪化につながりかねません。転換の意思決定から開設後の安定化まで、一連のプロセスを中長期の事業計画として文書化し、法人内の合意形成と金融機関への説明に活用することが成功の鍵です。


まとめ

介護医療院への転換は、医療療養病床の稼働率が低迷し、長期的な収入安定を求める病院にとって有力な経営選択肢です。介護保険による月額包括収入は変動リスクが低く、地域の要介護高齢者ニーズに応えるという社会的使命とも合致します。

一方で、改修投資・事務システム変更・人員確保といったコストと業務負荷を過小評価すると、転換後に資金繰りが悪化するリスクがあります。経常赤字65.6%(四病協2024年度最終報告)という業界の実態を踏まえれば、転換の判断はデータに基づく冷静な収支シミュレーションを起点に行うべきです。

まずは「現状の療養病床の収支構造を正確に把握すること」から始め、都道府県・WAMへの相談、コンサルタントの活用も含めて多角的に検討することをお勧めします。


関連記事


出典・参考文献

無料メールで病院経営の実務メモを受け取る

診療報酬・加算・承継・経営改善の重要ポイントを、経営判断に使える短いメモとして届けます。

無料メールを受け取る