「病床利用率が73%で、病床稼働率は81%です」——同じ病院の数字なのに、なぜ二つの指標がこれほど異なる値を示すのか。そう疑問に感じたことがある院長・事務長の方は少なくないでしょう。

実はこの「ズレ」こそが、経営判断の落とし穴になっています。厚生労働省へ報告する病床利用率と、院内の日常管理で使う病床稼働率は、計算式の分母が根本的に異なります。 両者を混同したまま改善策を立案すると、数字の上では改善しているのに収益が伴わない、という事態を招きかねません。

四病院団体協議会の2024年度病院経営定期調査・最終報告によれば、医業赤字の病院は全体の74.6%、経常赤字に至っては65.6%に上ります。入院収益の根幹を担う病床の稼働をどう把握し、どう改善するか——その出発点となる「指標の定義」を、本稿では徹底的に整理します。


1. 病床利用率とは — 厚生労働省・病院報告の定義と計算式

定義と根拠法令

病床利用率は、厚生労働省が毎月実施する「病院報告」で使われる公式指標です。医療法および統計法に基づいて全病院が報告義務を負い、その集計結果が「医療施設(動態)調査・病院報告」として公表されます。

国が政策立案や地域医療構想の議論に使う数値であるため、算出方法は全国統一されています。病院間の比較や都道府県ベンチマークに使われるのは、この病床利用率です。

計算式

$$\text{病床利用率}=\frac{\text{月間在院患者延べ数}}{\text{許可病床数} \times \text{暦日数}} \times 100$$

ポイントは**分母が「許可病床数」**である点です。許可病床数とは、都道府県知事の許可を受けた病床の総数であり、実際に患者を受け入れられる状態かどうかは問いません。工事中で使えない病床も、人手不足で休床している病床も、分母にそのままカウントされます。

計算例

200床の一般病院で、ある月(30日)の在院患者延べ数が4,200人だったとします。

  • 病床利用率 = 4,200 ÷(200 × 30)× 100 = 70.0%

厚労省「令和6(2024)年 医療施設(動態)調査・病院報告」によると、全病床の全国平均は77.0%、一般病床に限れば**73.3%**です。自院の数値をこの全国平均と比較することで、相対的な病床活用度を把握できます。

報告頻度と活用場面

病院報告は月次で提出します。集計・公表は概ね3〜6か月後になるため、リアルタイムの経営管理には向きません。主に以下の場面で活用されます。

  • 地域医療構想・病床機能報告との整合性確認
  • 診療報酬算定要件(入院基本料の施設基準)の充足確認
  • 都道府県・厚労省への行政報告・病院指標の対外開示

計算式の比較フロー


2. 病床稼働率とは — 院内管理で使う実績指標

定義と位置づけ

病床稼働率は、法定の届出義務がある指標ではありません。各病院が院内の経営管理・病棟管理を目的として独自に算出する指標です。定義は病院によって若干異なることもありますが、最も一般的な計算式は次のとおりです。

$$\text{病床稼働率}=\frac{\text{月間在院患者延べ数}}{\text{稼働病床数} \times \text{暦日数}} \times 100$$

病床利用率との最大の違いは**分母が「稼働病床数」**である点です。稼働病床数とは、許可病床のうち実際に患者を受け入れられる状態の病床数であり、休床・停止中の病床は除きます。

計算例

先ほどと同じ病院(許可200床・在院延べ4,200人)で、うち20床が人手不足で休床中だったとします。

  • 稼働病床数 = 200 − 20 = 180床
  • 病床稼働率 = 4,200 ÷(180 × 30)× 100 = 77.8%

病床利用率70.0%に対して、稼働率は77.8%と約8ポイント高くなります。休床病床を除いて「動かせる病床でどれだけ稼いでいるか」を見るため、現場の実力値に近い数値が得られます。

稼働病床数の把握方法

稼働病床数は日々変動します。病棟改修・感染症対応・看護師不足など、さまざまな理由で一時的に休床が生じます。そのため、月次の稼働病床数は「月初の稼働病床数」「日別の最大稼働数の平均」など、病院ごとに取り決めた方法で管理します。

電子カルテや病床管理システムと連動させ、リアルタイムで稼働病床数と入院患者数を可視化している病院では、この指標を朝のベッドコントロール会議で活用しています。

活用場面

  • 病棟師長・看護部長によるベッドコントロール
  • 病棟別・診療科別の収益性分析
  • 理事会・経営会議への月次報告(内部管理用)
  • 病床再編・休床解消の投資判断材料

病床利用率と病床稼働率の比較表


3. なぜ数値が異なるのか — 休床・停止病床の扱いが鍵

許可病床・稼働病床・在院患者の包含関係

二つの指標が異なる値を示す根本原因は、**「病床の状態分類」と「それぞれを分母に使うかどうか」**の違いです。病床は大きく三層構造で理解できます。

  1. 許可病床数(最外層):都道府県知事の許可を受けた総病床数。法律上の「最大キャパシティ」。
  2. 稼働病床数(中間層):許可病床のうち、実際に患者を受け入れられる状態の病床数。休床・工事中は除く。
  3. 在院患者数(最内層):実際に入院している患者数(0時時点の患者数を翌日に計上するのが原則)。

病床利用率は「許可病床」を分母とし、病床稼働率は「稼働病床」を分母とします。休床病床が多いほど、二つの指標の乖離が大きくなります。

休床の主な原因

休床は「経営の問題」ではなく「現場の問題」として発生することが多く、その原因を正確に把握することが改善の第一歩です。

休床原因 具体例 対応部門
人員不足 看護師離職・欠員による病棟閉鎖 看護部・人事部門
施設・設備 改修工事・空調故障・感染対応区画確保 施設管理部門
需要不足 患者数減少による計画的縮小 経営企画・営業部門
行政的制約 病床機能報告の転換申請中など 医事・企画部門

二指標の乖離を読み解く

たとえば、病床利用率が68%で稼働率が85%だとします。この場合、「稼働している病床は十分埋まっているが、許可病床の約20%が休床している」という状態です。課題は"集患力"ではなく"稼働病床の回復"、すなわち看護師確保や施設整備にあると読み取れます。

逆に、稼働率が65%で利用率が63%であれば、稼働病床はほぼ全部動かせているのに患者が少ない状態です。この場合は集患・紹介患者の増加・在院日数の適正化が課題となります。

乖離の大きさと方向性を把握することで、改善策の方向が全く変わります。これが二指標を使い分ける最大の意義です。

停止病床とその扱い

「休床」に類似した概念として「停止病床」があります。停止病床とは、病院の判断で長期的に使用を止め、都道府県に届け出た病床です。停止届を提出した場合、その病床は許可病床数からは引かれませんが(許可そのものは継続)、実態として長期間稼働しない点で病棟運営に影響します。

一方、新型コロナウイルス感染症対応などで国・自治体の要請により確保した病床は、入院患者を受け入れない代わりに補助金が支給されるケースがあり、この扱いを病床利用率の計算でどう処理するかは施設により異なります。報告書を読む際は定義を確認することが重要です。

病床の状態分類と計算分母の関係


4. 病型別の目安値と損益分岐点

全国平均の確認

厚労省「令和6(2024)年 医療施設(動態)調査・病院報告」が示す最新の全国平均は以下のとおりです。

  • 全病床:77.0%
  • 一般病床:73.3%

療養病床・精神病床・結核病床・感染症病床については、施設の機能・地域特性・報酬体系により大きく異なるため、一概に全国平均との比較で判断することは難しく、施設の特性に応じた目標設定が必要です。

損益分岐点80%の意味

一般病床では損益分岐点が概ね80%前後とされています。これは固定費(人件費・施設維持費)をカバーするために必要な最低稼働水準を意味します。

全国平均の73.3%は、この損益分岐点を約7ポイント下回っています。これが医業赤字74.6%という四病協調査の数値と符合します。

1ポイントの価値を試算する

利用率改善の経済的インパクトを具体的に把握するために、以下のような試算が有効です。

試算前提:許可病床200床・入院単価5万円

  • 利用率1ポイント改善 = 200床 × 1% = 2床分の在院患者増
  • 年間増収効果 = 2床 × 5万円 × 365日 = 年間約3,650万円

たった1ポイントの改善で3,600万円超の増収が見込める計算です。逆に言えば、休床が10床あれば年間で約1億8,000万円の機会損失が生じている可能性があります。この数字を経営会議・理事会で共有することで、病床管理への投資(看護師採用コスト・施設修繕費など)の正当性が明確になります。

病型別の目安(参考)

病床種別 全国平均(2024年) 損益分岐点目安 備考
全病床 77.0% 加重平均値
一般病床 73.3% 約80% 急性期中心
療養病床 施設により異なります 長期療養・医療区分が影響
精神病床 施設により異なります 在院日数・地域特性が影響

※療養・精神等の損益分岐点は診療報酬体系・患者属性・地域性により大きく異なるため、施設ごとの個別分析が必要です。

病型別 病床利用率 全国平均


5. 経営管理における二指標の使い分け

使い分けの基本原則

病床利用率と病床稼働率は「どちらが正しい」ものではなく、目的に応じて使い分けるものです。混同が起きるのは、どちらの指標で話しているかを明示しないまま会話が進むためです。会議の冒頭で「今日の数字は稼働率ベースです」と一言添えるだけで、多くの混乱を防げます。

対外用(行政・公開情報)には病床利用率

以下の用途には病床利用率(許可病床数ベース)を使います。

  • 厚労省・都道府県への病院報告(法定義務)
  • 地域医療構想・病床機能報告との整合確認
  • 入院基本料の施設基準(平均在院日数・重症度基準)の達成確認
  • 対外的なベンチマーク(都道府県平均・全国平均との比較)
  • ホームページ・広報資料での開示(開示する場合)

行政が公表している全国平均・都道府県平均は許可病床ベースで集計されているため、比較可能性を保つには同じ定義を使う必要があります。

院内管理には病床稼働率

以下の用途には病床稼働率(稼働病床数ベース)が適しています。

  • 病棟別・診療科別の月次収益管理
  • ベッドコントロール(毎朝の空き病床・退院予定の把握)
  • 看護配置・シフト計画(病棟の実績に基づく人員配置)
  • 増床・休床解消の投資判断(現場の実力値を見るため)
  • 中期経営計画の目標設定(実現可能な水準の設定に)

経営分析では両方を並べて読む

最も重要なのは、両指標を並べて読むことで、問題の所在を特定することです。

たとえば、こういうケースが典型です。「病床利用率は69%で全国平均を大きく下回る。しかし病床稼働率は83%。つまり、稼働できている病床は十分に埋まっている。問題は利用率を下げている15床の休床だ。休床の原因は看護師の離職。ならば投資すべきは採用・定着策だ」——こうした論理展開が、二指標の使い分けで初めて可能になります。

指標の設定と目標管理

月次の経営会議では、以下の四指標をセットで管理することを推奨します。

  1. 病床利用率(許可病床ベース・対外比較用)
  2. 病床稼働率(稼働病床ベース・院内実力値)
  3. 休床病床数と原因分類(乖離の説明変数)
  4. 1日平均在院患者数(絶対値での確認)

四つを並べることで、「比率の改善が絶対数の増加を伴っているか」を確認でき、見かけ上の改善(分母を減らして比率を上げる操作)を防げます。

使い分けチャート:対外用vs院内管理用


6. 利用率・稼働率を上げる実務アプローチ

改善の4ステップ

病床利用率・稼働率の改善は、「集患を増やせばいい」という単純な話ではありません。問題の所在を正確に特定し、原因に応じた施策を打つ必要があります。以下の4ステップが実務上の標準的な流れです。

ステップ1:現状把握

まず、病床利用率・病床稼働率・休床病床数の過去12か月の推移を可視化します。月次グラフで傾向を把握したうえで、病棟別・診療科別に分解します。「全体としては70%でも、A病棟は88%、B病棟は52%」という内訳が見えることで、優先すべき病棟が特定されます。

ステップ2:原因分類

稼働率が低い病棟について、低稼働の原因を以下の四カテゴリに分類します。

  • 需要側:紹介患者が少ない、特定疾患の患者が減少している
  • 供給側(人員):看護師不足で受け入れ制限をかけている
  • 供給側(施設):改修中・設備故障などで物理的に使えない
  • フロー:在院日数が長く、新規入院の受け入れ余地がない

原因を混在させたまま施策を打つと、効果が分散します。一つの病棟に複数原因が重なっている場合は、優先順位をつけて対処します。

ステップ3:施策の選択

原因分類ごとに、有効な施策が異なります。

需要側への施策

  • 地域連携強化:かかりつけ医・診療所への訪問営業、紹介率・逆紹介率の管理
  • 疾患別マーケティング:手術件数の少ない領域で専門外来を開設し、手術待ち患者を取り込む
  • 救急受け入れ体制の整備:断らない救急の実践により、緊急入院を増やす

供給側(人員)への施策

  • 看護師採用・定着策:採用チャネルの多元化(人材紹介・直接採用・奨学金返済支援)
  • 特定行為研修の活用:特定行為研修修了看護師を配置し、医師業務を代替することで入院受け入れ効率を高める
  • 夜間帯の体制見直し:夜勤回数・負担を分散し、離職抑制を図る

フロー(在院日数)への施策

  • 退院支援の早期介入:入院翌日から退院支援看護師・MSW(医療ソーシャルワーカー)がアセスメントを開始
  • 地域包括ケア病床・回復期病棟との連携:急性期治療後の受け皿を確保し、転棟・転院をスムーズにする
  • クリニカルパスの見直し:主要疾患のパス遵守率を上げ、在院日数のばらつきを縮小する

ステップ4:実施とモニタリング

施策を実施したら、月次の病棟別稼働率・休床病床数・1日平均在院患者数を継続的にモニタリングします。改善策の効果が数字に現れるまでには通常3〜6か月かかるため、短期で判断せず、四半期ごとに振り返りを設けることが重要です。

改善効果の経済試算を経営に組み込む

施策の投資対効果を経営会議で説明する際には、「利用率1ポイント≒年間3,650万円(200床・入院単価5万円の場合)」という基準を活用します。たとえば「看護師2名の採用コストが年間1,200万円かかるが、それによって休床4床が解消されれば年間増収は約7,300万円」という形で、投資判断を数値化できます。

数値の根拠を明確にしたうえで理事会に提案することで、看護師採用・施設投資・システム導入といったコスト案件が承認されやすくなります。

よくある失敗パターン

最後に、現場でよく見られる失敗パターンを三つ挙げます。

  • 失敗①「稼働率を上げるために休床を削減」:稼働病床数を意図的に減らすと稼働率は上がりますが、在院患者数(収益)は変わらず、むしろ許可病床の空きが増えて将来の病床機能報告に悪影響を与えることがあります。
  • 失敗②「利用率の低下を在院日数短縮で対応」:退院を早めるだけでは、次の新規入院が増えなければ利用率は改善しません。退院支援と集患を同時に進めることが不可欠です。
  • 失敗③「対外報告と院内管理を同じ数字で済ませる」:許可病床ベースの利用率しか管理していない病院では、現場の実力値が見えず、改善策の効果測定もできません。稼働率を院内KPIとして別途管理する体制を整えることが重要です。

病床利用率・稼働率 改善ロードマップ


まとめ

本稿のポイントを整理します。

  • 病床利用率は許可病床数を分母とする厚労省・病院報告ベースの法定指標。対外比較・行政報告に使う。
  • 病床稼働率は稼働病床数を分母とする院内管理指標。現場の実力値を把握するために使う。
  • 二指標の乖離が大きいほど休床が多い。乖離の原因を「人員不足か」「施設問題か」「需要不足か」に分類することで、改善策の方向が決まる。
  • 全国平均は一般病床73.3%(2024年)で、損益分岐点の目安80%を約7ポイント下回る。200床・入院単価5万円の試算では1ポイントの改善が年間約3,650万円の増収に相当する。
  • 改善は「現状把握→原因分類→施策選択→モニタリング」の4ステップで体系的に進める。

病床管理は病院経営の根幹です。二つの指標を正しく理解し、経営会議・理事会で活用することが、収益改善の第一歩となります。


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出典

  1. 厚生労働省 令和6(2024)年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況
  2. 四病院団体協議会 2025年度 病院経営定期調査 結果報告(2025年11月)
  3. GemMed 医業赤字74.6%・経常赤字65.6%(四病協最終報告の解説)
  4. 福祉医療機構 病院経営動向調査(WAM短観)
  5. 帝国データバンク 全国「病院経営」動向調査(2024年度)
  6. PwC Japan 2026年度診療報酬改定で複雑化する入院料の選択肢

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