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再生・経営改善

病院の遊休不動産・土地を活かす経営 — 売却・賃貸・老健転用の選択肢と判断基準

監修者 藤井翔悟

2026-10-15 | NPO法人日本はすばらしい 病院経営支援チーム
監修: 藤井翔悟(医療機関経営支援16年・累計1,000院以上)

病院の医業収支が厳しさを増す中、「使っていない土地や建物が経営の足かせになっている」という声が増えています。四病協の2024年度病院経営定期調査によると、病院の**医業赤字が74.6%・経常赤字が65.6%**にのぼり、多くの病院が毎年の資金繰りに苦心しています。帝国データバンクの2024年度調査でも、民間病院約900法人の61.0%が営業赤字という厳しい実態が確認されています。

こうした状況の中で改めて注目されているのが、遊休不動産の活用です。病床削減・外来縮小・診療科の統廃合によって発生する空きスペース、建て替えや移転に伴う旧敷地、未活用の別棟・土地など、病院は意外に多くの不動産資産を保有しています。

これらを「維持費がかかるだけの資産」のまま放置するのではなく、売却・賃貸・事業転用のいずれかの方向で活用することが、赤字体質からの脱却や財務改善の一手となりえます。本稿では、選択肢の比較から判断基準・税務・法的留意点まで、実務で活かせる視点を体系的に整理します。

遊休不動産が生まれる背景

病院で遊休不動産が発生する原因は、大きく①病床削減・ダウンサイジング、②施設移転・新築、③診療科の統廃合の三つです。

①病床削減・ダウンサイジング

全国の病院の病床利用率は全病床平均77.0%、一般病床では73.3%(厚生労働省 病院報告2024)にとどまり、損益分岐点の目安とされる80%前後を下回る施設が多数あります。200床・入院単価5万円の病院では、病床利用率が1ポイント変化するだけで年間約3,650万円の増減が生じます(2床×5万円×365日の試算)。

病床を適正化(削減)することで人件費・光熱費を圧縮できる一方、病棟フロア丸ごとが余剰スペースとなるケースがあります。4床室を1人部屋に転換した後、余った共用スペースが空白地帯になるケースも典型的です。病床を減らして空いたフロアや病棟をどう使うかは、病院全体のコスト構造に直結する重大な判断です。

②施設移転・新築

老朽化した旧病棟・旧本館から新館に移転した後、旧建物が残されたまま放置されるケースがあります。取り壊し費用(解体費用は施設規模によって数千万〜数億円に及ぶこともある)がかかることへの躊躇から、数年間放置されてしまうことも珍しくありません(一般的な傾向として)。解体して更地として売却・賃貸に出すか、旧建物をリノベーションして活用するかを早期に検討することが、固定費削減の観点から重要です。

③診療科の統廃合

分娩部門の廃止や整形外科・眼科などの縮小・閉鎖によって、専用の処置室・手術室・入院室が余剰になることがあります。医療機関の倒産66件・休廃業解散823件が2025年に2年連続で過去最多を記録した(帝国データバンク2025年調査)ほど厳しい経営環境では、診療科の整理は避けられない選択肢となります。それに伴う余剰空間をどう扱うかも経営課題の一つです。

遊休不動産が発生する主な経緯

遊休不動産の3つの活用方向

遊休不動産の活用は、①売却・リースバック、②賃貸(底地・建物)、**③事業転用(介護・福祉関連)**の3方向に整理できます。それぞれの比較を理解した上で、自病院の状況に合った選択をすることが重要です。

活用方向 主なメリット 主なデメリット 適合する状況
売却 即時現金化・維持費ゼロ 将来の再取得困難 資金繰り逼迫・再利用予定なし
リースバック 現金化しながら利用継続 長期賃料が割高になりやすい 施設を使い続けつつ資金化
賃貸・土地活用 安定賃料収入・所有権維持 テナント管理・維持費が継続 立地良好で需要が見込める
介護施設等転用 地域需要に対応・連携強化 許認可・改修に時間と費用 地域の介護不足・長期的成長狙い

選択にあたっては、①資金需要の緊急性、②対象不動産の立地・法的条件、③病院経営の長期ビジョンの三点を総合的に判断する必要があります。

資金繰りが逼迫している場合は売却・リースバックが有力ですが、将来の拡張余地がある土地を安値で手放すことは長期的に損失となる場合もあります。複数の選択肢をシミュレーションしてから意思決定することが肝要です。

また、活用の優先順位を決める上では、対象不動産が「基本財産」か「その他財産」かを事前に確認しておく必要があります。基本財産は法的制約が大きく、売却・担保設定に所轄庁の認可が必要になる場合があるため、法的な整理が先決です。「活用したいが法的に動けない」というケースを防ぐためにも、不動産の種別確認を最初のステップとして行うことが推奨されます。

遊休不動産 活用方向の比較

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売却・リースバックの実務と注意点

売却の法的前提確認

病院の土地・建物を売却する際には、まず「医療法人が不動産を処分できるか」という法的確認が必要です。医療法人の基本財産に当たる不動産は、所轄庁(都道府県)への届出または認可が必要なケースがあります。法人形態・定款の規定によって手続きが異なるため、事前に顧問弁護士・税理士と協議することが不可欠です。

手続きを怠ったまま売却契約を締結した場合、後から契約が無効となるリスクがあります。特に解散・清算を念頭に置いた売却の場合は、医療法の規定と法人格の扱いについて複雑な手続きが伴います。

時価評価と売却価格の設定

売却価格は不動産鑑定士による時価評価が基本です。帳簿上の簿価(取得価額から減価償却を差し引いた価額)より市場価値が高い場合もあれば低い場合もあります。売却益が生じた場合の法人税への影響(医療法人の課税区分に注意)も精査が必要です。

公正な価格設定なしに関係者への廉価売却(著しく低い価格での売買)を行うと、税務上の問題が生じる可能性があります。

リースバックのメリットと落とし穴

リースバック(Sale and Leaseback)は、不動産を売却して現金を得ながら、同じ施設を賃借人として使い続ける仕組みです。「資金化+利用継続」という一見都合の良い選択肢ですが、長期の賃借料累積コストが売却価格を上回るケースも珍しくありません。

リースバックを検討する際に必ず確認すべき事項は、賃料水準(周辺相場との比較)、契約期間・更新条件、買い戻しオプションの有無の三つです。病院の経営が将来好転した際に施設を買い戻せる条件が残っているかどうかも重要な交渉ポイントです。

売却・リースバックの検討ステップ

賃貸・土地活用の選択肢

建物・フロアの賃貸

空きフロアや別棟を第三者に賃貸する場合、テナント選定が収益性と病院との相乗効果を左右します。病院の建物であることを活かして調剤薬局・訪問看護ステーション・訪問介護事業所・クリニックなどの医療・介護関連事業者を誘致するケースが見られます(一般的な事例として)。医療・介護関連のテナントは患者の利便性向上にもつながり、病院への紹介連携が深まる副次効果が期待できます。

一方、医療機器・放射線設備がある部屋を一般テナントに貸し出す場合は用途変更の許可が必要な場合があり、設備撤去・補修費用の負担交渉も複雑になります。テナント誘致前に建物の状況を精査することが重要です。

土地の有効活用

土地のみを保有している場合、事業用定期借地権による賃貸が選択肢の一つです。一定期間(10年以上50年未満)を定めた上で、介護施設・保育所・商業施設などの事業者に土地を貸し付けることで、地域のニーズに応えながら安定した土地賃料を確保できます。建物の建設・解体は借主負担となるため、病院側の初期投資を抑えられる点が魅力です。

また、駐車場経営は許認可が不要で迅速に収益化できますが、地方病院の周辺では需要が限定的な場合もあります。機械式・平面式の選択や、コインパーキング業者への土地賃貸による運営委託なども検討の余地があります。

病院のコストの5〜6割は人件費(検証済みファクト)が占め、不動産関連の固定費削減は限定的です。しかし「毎月の維持費が収入ゼロのまま発生し続ける」状況を改善することは、赤字体質改善のための小さくない一歩となります。

賃貸収入と財務管理

賃貸収入が発生した場合、医療法人の会計上は「医業外収益」として計上します。一般的に医業外収益は病院経営の本業である医業収益とは区別して管理することが重要であり、遊休不動産からの収入が「本業の赤字を補填しているに過ぎない」状態になっていないかを定期的に確認することが必要です。本業の医業収益改善と並行して取り組む補完的手段として位置づけることで、過度な依存を防ぐことができます。

また、テナントの退去・空室リスクも念頭に置いた財務計画が必要です。特定のテナント1件への依存は、退去時の収入激減というリスクを生みます。可能であれば複数テナントによる分散、あるいは契約更新時期を分散させることで、収入の安定性を高めることが推奨されます。

賃貸・土地活用の種類と特徴

老健・高齢者住宅などの介護関連施設への転用

病院にとって収益性と社会性の両面で評価されやすいのが、介護保険施設・高齢者住宅への転用です。超高齢社会における需要の高さと、病院との機能的連携による相乗効果が見込まれます。また、診療所の経営者の56.7%が70歳以上(帝国データバンク2025年調査)という現状を踏まえると、地域での医療・介護一体的サービス提供の拠点構築も病院経営の重要テーマとなっています。

介護老人保健施設(老健)

老健は「在宅復帰支援」を目的とした中間施設であり、病院との親和性が非常に高いです。一般病棟からの退院患者を受け入れ、在宅復帰を支援する機能は病院の「出口問題(退院調整の難しさ)」解決にも役立ちます。設置には厚生労働省の基準に基づく都道府県の開設許可が必要であり、医療法人が設置主体になれます。

建物の耐火基準・バリアフリー基準を満たすかどうかの技術的確認を先に行い、必要な改修費用を見込んだ上で収支計算をすることが不可欠です。また、常勤医師の配置が老健では必須となるため、医師の確保が実現可能かどうかも先に見極める必要があります。

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)

サ高住は入居者の見守り・生活相談を提供する高齢者の住まいであり、病院に隣接する立地は入居者の安心感を高めます。老健ほど施設基準が厳格ではなく(都道府県への登録制度)、転用にかかるハードルが相対的に低い場合もあります(具体的な要件は所管都道府県に確認が必要)。入居者の医療ニーズに対応するため、病院からの訪問診療・緊急時の受け入れ体制を整備することで差別化が図れます。

特別養護老人ホーム(特養)について

特養は入居待機者が多く社会的需要は高いですが、設置主体が社会福祉法人に限定されるため医療法人が直接開設することはできません。関連する社会福祉法人を別途設立する方法もありますが、ガバナンスや会計の分離管理が求められます。医療法人と社会福祉法人の関係性については専門家との慎重な設計が必要です。

介護施設転用を検討する際のチェックリスト

税務・法的留意点と意思決定フロー

消費税の非課税・課税区分に注意

土地の売却・賃貸は消費税が非課税ですが、建物の賃貸(居住用を除く)は課税取引となります。医療法人は診療報酬が非課税売上であることから消費税の「仕入税額控除」が構造的に制限されており、建物の賃料収入が増えると課税売上割合に影響が出る場合があります。病院の消費税問題は従来から指摘されている構造的課題ですが、不動産活用を行う際にも同様の注意が必要です。必ず顧問税理士に事前相談を行い、課税区分の整理と対策を確認してください。

医療法・定款上の制約

医療法人の基本財産である不動産の処分には、社員総会の決議と所轄庁(都道府県)の認可・届出が必要なケースがあります。法人形態(持分あり医療法人・持分なし医療法人・社会医療法人等)や定款の記載によって手続きの要否が異なるため、一律に判断することはできません。売却・リースバック・長期賃貸・転用のいずれも、法的手続きを踏まずに実行すると契約が無効となるリスクがあります。

補助金・融資制度の活用

介護施設への転用に際して、都道府県や市区町村から整備補助金が支給されるケースがあります。また、福祉医療機構(WAM)の医療・介護施設向け融資制度を活用することで、初期改修コストを抑えながら資金効率を高めることも可能です。WAMの融資制度については金利・返済条件・審査要件を事前に調べ、事業計画との整合性を確認してください。

民間病院約900法人の61.0%が営業赤字(帝国データバンク2024年度)という厳しい経営環境の中で、遊休不動産の活用は一夜での大幅な黒字化をもたらすものではありません。しかし、「毎年かかる固定費を削減しながら収益源を追加する」地道な改善策として、中長期の財務計画に組み込む価値は十分にあります。

外部専門家チームの活用

遊休不動産の活用には複数の専門領域が絡みます。法的整理(弁護士・司法書士)、税務対策(税理士)、不動産価値評価(不動産鑑定士)、事業計画の策定(経営コンサルタント・WAM相談窓口)など、自病院だけで判断せず、外部専門家チームを組成して進めることがリスクを最小化します。特に、一度売却すると取り戻しにくい不動産については、「急いで決めない」という姿勢が長期的な経営の安定を守ることにもなります。

対象不動産が確認できたら、まずは現況調査と複数シナリオのシミュレーションを行い、経営会議・理事会レベルで方針を確定する流れが現実的です。意思決定プロセスの透明性を確保することが、後になって内外から異議を唱えられるリスクの低減にもつながります。

遊休不動産活用の意思決定フロー

まとめ

病院の遊休不動産・土地は「負債」ではなく「潜在的な経営資源」です。病床削減・診療科整理・施設移転によって生まれた余剰スペースを、①売却・リースバック、②賃貸・土地活用、③老健・高齢者住宅などへの転用、というレンズで見直すことが、財務改善の具体的な一手となりえます。

遊休不動産は「維持費がかかるだけの資産」のまま放置されがちですが、対策を先延ばしにするほど固定費の累積と建物の老朽化が進み、将来の活用コストが高まります。まずは自病院が保有する不動産の種類と状況を洗い出し、優先順位をつけて検討を開始することが重要です。

選択にあたっては、医療法・定款上の法的制約、消費税・法人税の税務影響、建物の物理的条件の三点を事前に精査することが不可欠です。また、地域の介護需要や連携先の状況を踏まえて「病院グループ全体の戦略」として考えることが、単なる資産処分を超えた経営改善につながります。

資金繰りの逼迫を抱える病院ほど、遊休資産の活用策を早期に検討することが推奨されます。外部の不動産コンサルタント・税理士・弁護士のチームを組成し、自病院の状況に合った最善の活用方法を具体的なスケジュールで実行に移してください。

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