「経営会議の資料は分厚いのに、結局どの数字を見ればいいのか分からない」——多くの理事長・院長が抱える悩みです。四病院団体協議会の2024年度病院経営定期調査(最終報告)では病院の74.6%が医業赤字・65.6%が経常赤字、帝国データバンクの2024年度調査でも民間病院約900法人の61.0%が営業赤字(前年度54.8%から悪化)と報告されており、経営状態を月次で正確に把握することの重要性はかつてなく高まっています。とはいえ、数字は多ければよいものではありません。本稿では、理事長が月次で見るべき経営指標を収益系・費用系・財務系・プロセス系の4群20指標に整理し、それぞれの意味と「どこからが黄信号か」、指標同士のつながり、月次経営会議での使い方まで、一覧で解説します。

全体地図 — 20指標を4群に整理する

病院経営指標20を4群に整理した全体マップ

まず全体像です。20指標は次の4群に分かれます。

見るもの 指標
収益系(6) 稼ぐ力 病床利用率/入院診療単価/外来診療単価/新入院患者数/外来患者数/紹介率
費用系(4) 使い方 人件費率/材料費率/委託費率/人件費+委託費率
財務系(5) 残る力・耐える力 医業利益率/経常利益率/償却前利益/現預金月商倍率/借入金償還年数
プロセス系(5) 先行指標 平均在院日数/病床回転数/救急応需率/逆紹介率/職員離職率

ポイントは、4群は「原因→結果」の流れでつながっていることです。プロセス系が動くと収益系が動き、収益系と費用系の差が財務系に現れます。財務系の悪化は「結果」であり、そこだけ見ていても手遅れになります。逆に言えば、プロセス系と収益系は毎月動く先行指標であり、月次管理の主戦場はここです。J-STAGEに掲載された「経営分析データによる病院経営改善の試み」(医療情報学)でも、経営データを継続的に分析し改善につなげる枠組みの有効性が示されており、指標は「並べる」より「つなげて読む」ことが肝心です。

収益系6指標 — 稼働と単価を分けて見る

病床利用率の全国平均と損益分岐点を示した棒グラフ

①病床利用率は収益系の王様です。全国平均は全病床77.0%・一般病床73.3%(厚労省 病院報告2024)で、損益分岐点は一般に80%前後とされます。つまり平均的な病院は損益分岐点を下回った稼働で走っているわけで、80%を下回ったら黄信号、下降トレンドが3か月続いたら赤信号と考えてください。参考までに、200床・入院単価5万円の病院では利用率1ポイントが年間約3,650万円の増収に相当します(2床×5万円×365日の機械計算)。

②入院診療単価・③外来診療単価は、施設基準・加算の取りこぼしがないかを映す指標です。単価の急な低下は算定漏れや患者構成の変化のサインであり、水準そのものより前年同月比・改定前後の変化を追います。とくに診療報酬改定の年は、届出の見直しが単価に直結するため、改定月をまたいだ単価の推移は必ず経営会議の議題に載せてください。④新入院患者数は入院収益の源泉で、平均在院日数とセットで見る指標です。在院日数の短縮は新入院増と組み合わせて初めて増収になるため、この2つは同じグラフで並べて見るのが定石です。⑤外来患者数は外来収益と将来の入院につながる裾野を示します。⑥紹介率は地域からの信頼の指標で、低下傾向が続く場合は連携室の体制や、近隣の診療所・ケアマネジャーとの関係を点検します。紹介は「待つもの」ではなく、返書の速さや受け入れ窓口の分かりやすさで「育てるもの」です。

収益系で大切なのは、「患者数×単価」に必ず分解して見ることです。収益減の会議で「頑張って患者を増やそう」で終わらせず、数量の問題か単価の問題かを切り分けることが、打ち手の精度を決めます。

また、収益系の指標は月ごとの季節性を持ちます。診療日数の違い、感染症の流行期、年末年始や大型連休の影響などで単月の数字は上下するため、前月比だけで判断すると誤った警報が頻発します。前年同月比を基本に、直近12か月の移動平均を添えて眺めると、季節のノイズを除いた本当のトレンドが見えてきます。

費用系4指標 — 人件費率は「分母」とセットで読む

人件費率と委託費率の関係を示した費用構造図

⑦人件費率(人件費÷医業収益)は費用系の中心です。病院のコストの5〜6割は人件費であり、この水準を大きく超えて上昇が続くようなら黄信号です。ただし人件費率の悪化は、人件費(分子)の増加よりも医業収益(分母)の減少が原因であることが多い点に注意してください。利用率が下がれば、職員数が同じでも人件費率は自動的に上がります。人件費率が悪いからといって安易に人員削減に走ると、診療体制が崩れて分母がさらに縮む悪循環に陥ります。

⑧材料費率は医薬品・診療材料の比率で、薬価改定や高額薬剤の使用状況で動きます。ベンチマークとの比較や価格交渉・在庫管理の巧拙が現れる指標で、急な上昇があれば、高額薬剤を使う患者の増加なのか、購入価格の問題なのか、不動在庫や期限切れ廃棄の問題なのかを切り分けて原因を特定します。⑨委託費率は給食・清掃・検査・医事などの外部委託費の比率です。物価や委託先の人件費上昇を反映して契約更改のたびに上がりやすい費目であり、複数年契約の条件や仕様の見直し余地を定期的に点検する必要があります。そして見落とされがちなのが⑩人件費+委託費率です。委託を増やすと人件費率は見かけ上下がりますが、実態としての「人にかかるコスト」は委託費に移っただけかもしれません。J-STAGEの「人件費をベースとした新たな病院経営指標を用いた国立病院機構における5年間の分析」(日本医療マネジメント学会雑誌)が示すように、人件費を軸にした指標設計は病院の経営分析において有力なアプローチであり、人件費と委託費を合算した比率で実態を追うことをお勧めします。

財務系5指標 — 「利益」と「資金」は別物として見る

財務系5指標と危険水域を整理したカード型の図

⑪医業利益率は本業の採算、⑫経常利益率は補助金や運用収益まで含めた総合の採算を示します。医業赤字74.6%・経常赤字65.6%(四病協2024年度調査)という数字が示すとおり、医業では赤字でも補助金等で経常黒字という病院は少なくありません。医業利益率のマイナスが恒常化しているなら、経常が黒字でも構造的な黄信号と捉えるべきです。

⑬償却前利益(利益に減価償却費を足し戻したもの)は、現金ベースで本業がどれだけ資金を生んでいるかの近似値です。償却前利益がマイナスなら、事業を続けるほど現金が減っている状態であり、明確な赤信号です。⑭現預金月商倍率(現預金÷月商)は資金繰りの耐久力を示し、水準は施設により異なりますが、減少トレンドが続くこと自体が危険信号です。⑮借入金償還年数(借入金残高÷償却前利益など)は、いまの稼ぐ力で借金を何年で返せるかという金融機関目線の指標で、長期化するほど追加融資のハードルが上がります。

財務系は月次決算の精度が前提です。締めが遅く精度の粗い月次決算では、これらの指標は「2か月前の体温」しか示せません。発生主義での計上ルールを固め、翌月の早い時期に速報値が出る体制を整えることが、指標活用の土台になります。日本経営診断学会論集の「病院を経営する医療法人の財務分析」のように、医療法人の財務データを体系的に分析する研究も蓄積されており、自院の財務指標を経年で並べるだけでも異常検知の感度は大きく上がります。金融機関との対話でも、これらの指標を自ら説明できる病院とそうでない病院では、信頼の置かれ方が変わってきます。

プロセス系5指標 — 3か月後の収益を予告する先行指標

プロセス系5指標を先行指標として整理した図

プロセス系は、収益や財務の数字が悪化する前に動く先行指標です。

  • ⑯平均在院日数:短縮は新入院増とセットで初めて増収になります。施設基準の要件にも関わるため、入院料の届出と合わせた管理が必要です
  • ⑰病床回転数:一定期間に1床あたり何人の患者が入れ替わったか。在院日数と表裏の関係にあり、回転の低下は将来の単価低下を予告します
  • ⑱救急応需率:救急の依頼にどれだけ応じられたか。断りが増えると、地域からの紹介・搬送が徐々に他院へ流れ、数か月後の新入院減として現れます
  • ⑲逆紹介率:落ち着いた患者を地域の診療所へ戻せているか。紹介率とセットで、地域連携の循環が健全かを示します
  • ⑳職員離職率:最重要の先行指標のひとつです。離職の増加は、採用コスト増・体制縮小・稼働低下という形で、半年から1年遅れで損益を直撃します

プロセス系に共通する読み方は、絶対値よりトレンドです。「先月より悪い」が2〜3か月続いた指標は、収益系に波及する前に原因を掘る。これが月次管理の要諦です。

なお、プロセス系は現場の行動に最も近い指標群であるだけに、数字の詰め方を間違えると現場が疲弊します。救急応需率を上げろとだけ号令をかければ無理な受け入れが起き、在院日数を単独目標にすれば退院を急がせる圧力になります。プロセス指標は「現場を責める道具」ではなく「体制のボトルネックを見つける道具」として使う——この姿勢を経営側が明確にすることが、指標管理を定着させる何よりの条件です。

指標のつながりと月次経営会議での使い方 — 見る順番を決める

月次経営会議で指標を見る順番のフロー図

20指標は対等ではありません。会議では見る順番を固定することで、議論が毎月同じ土俵で積み上がります。お勧めの順番は次のとおりです。

  1. 病床利用率・新入院患者数(今月の稼働はどうだったか)
  2. 入院・外来単価(稼働の中身=単価は保てているか)
  3. 平均在院日数・救急応需率・紹介/逆紹介(来月以降の稼働の先行指標)
  4. 人件費率・材料費率・委託費率(収益に対して費用は釣り合っているか)
  5. 償却前利益・現預金月商倍率(結果として資金は残ったか)
  6. 離職率・採用状況(体制は持続可能か)

このとき必ず意識したいのが指標同士のつながりです。たとえば利用率の低下は、人件費率の分母(医業収益)を縮めるため、人件費率悪化として2〜3か月後に現れます。「人件費率が悪化した→人を減らす」ではなく「利用率が下がった→稼働を戻す」が正しい因果の読み方です。同様に、離職率の上昇は将来の利用率低下と採用コスト増の予告です。

最後にダッシュボード化を強くお勧めします。毎月、担当者が手作業で分厚い資料を作るのではなく、20指標を1枚に集約し、前年同月比・予算比・トレンドの3点だけを色分けして示す。紙1枚でも構いません。作り方のコツは、最初から完璧を目指さないことです。まず今すぐ取れる指標だけで1枚を作って会議に出し、「この指標も欲しい」という要望を受けて毎月少しずつ育てていく方が、確実に定着します。医事システム・会計システムからの転記を月初の定型業務として担当者と期日を決めておけば、属人化も防げます。「経営分析データによる病院経営改善の試み」(医療情報学)が示すように、データを継続的に・同じ形式で見続ける仕組みそのものが改善の駆動力になります。会議の時間は数字の説明ではなく、黄信号の指標への打ち手の議論に使うべきです。

まとめ — 20指標は「毎月同じ順番で」見るから効く

病院経営指標のポイントを整理します。①収益系・費用系・財務系・プロセス系の4群20指標に絞る、②具体的な危険水域が言えるのは病床利用率80%前後・人件費率5〜6割などに限られ、他はトレンドで読む、③指標はつなげて読む(利用率→人件費率の分母)、④月次会議は見る順番を固定し、ダッシュボード1枚に集約する。病院の74.6%が医業赤字という環境下では、悪化を早く検知した病院から立て直しが始まります。まずは今月の経営会議で、この20指標が揃っているか・見る順番が決まっているかを確認するところから始めてください。

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出典・参考文献