「うちのような赤字病院に、買い手など付くのか」——承継のご相談で最も多い質問です。結論から言えば、赤字でも値が付くケースは珍しくありません。病院の価値は損益計算書だけでは決まらないからです。

価格算定の基本:2つのアプローチ

時価純資産法(コストアプローチ)

資産(土地・建物・設備)を時価評価し、負債を差し引いた純資産を基準にする方法。不動産価値の大きい病院で使われます。

EBITDA倍率法(マーケットアプローチ)

譲渡価格 ≒ EBITDA(営業利益+減価償却費)× 3〜5倍 + 現預金 − 有利子負債

が実務でよく使われる目安です。倍率は地域・診療科・病床機能・医師体制によって変動します。都市部のケアミックス病院は高く、医師確保が困難な地域の急性期単科は低くなる傾向があります。

赤字病院でも値が付く3つの理由

  1. 病床許可というライセンス価値 — 地域医療構想の下、新規の病床許可はほぼ下りません。病院を「新設」できない以上、既存病床の取得は参入したい法人にとって唯一の手段であり、それ自体に希少価値があります。
  2. 買い手が黒字化の道筋を持っている場合 — 買い手グループの患者紹介網・共同購買・本部機能に載せれば黒字化できると判断されれば、現状の赤字は織り込み済みで値が付きます。
  3. 不動産・立地の価値 — 建物・土地の価値が事業価値を上回る病院もあります。

価格を下げる(または破談にする)要因

  • 直近での急激な患者数減少・医師の大量退職
  • 未払い残業代などの簿外債務、診療報酬の返還リスク
  • 建物の老朽化と建替え費用(耐震未対応は特に重い)
  • 理事長への高額な貸付金・不透明な関連取引
  • 出資持分に関する親族間の争い

これらは**磨き上げ(売却前の1〜2年での整理)**である程度改善できます。承継を少しでも視野に入れるなら、早めに棚卸しを始めることが価格に直結します。

「相場」を鵜呑みにしてはいけない理由

仲介会社の提示する査定額は、手数料獲得のために高めに出る傾向があります(専任契約を取るため)。一方で、買い手を早く決めたい局面では安めに誘導されることもあります。利害関係のない第三者のセカンドオピニオンを挟むことで、この歪みを補正できます。

まとめ

譲渡価格は「EBITDA倍率+純資産+ライセンス価値」の複合で決まり、赤字でも交渉の余地は十分にあります。ただし、売却が最善とは限りません。同じ数字を使って「再生した場合の価値」も試算し、比較したうえで判断すべきです。当NPOの無料経営診断では、その比較材料を中立の立場で提供しています。